【星幽塔】第一階層　黄金色の麦畑を、何度でも｜リアクション

【星幽塔】第一階層　黄金色の麦畑を、何度でも

「これが村長のひいおじいさんの手記……マメな人だったのね」
　美野梨はアレシスの図書館を訪ね、管理人に棚を案内してもらっていた。

「イナゴ様の儀式について、手がかりがあればいいけど」
　ずらりと並んだ手記は、背表紙に記載年月日と通し番号が入れられている。
　美野梨は古い物から順番に、そっとページを繰っていった。
　鉱脈が枯れ、住人は減る一方だったが、引っ越せる人ばかりではなかったこと。
　元村長と、残る住人達が苦心して畑を広げたこと。
　それでも冬を越せず、死者が出る年もあったこと。
「ん、これは仲人の記録ね」
　連なる死亡記録を見るのは、あまり良い気分ではない。美野梨の目はお祝いの記録に吸い寄せられた。
「あら？　このネイファという人……さっきどこかで……」
　仲人の記録を辿ってゆくと、美野梨は不思議な一致に気づいた。
「えっと……『今年も誰かに立ってもらうしかない』……の後、ネイファさんが名乗り出て……ん、随分弱々しい字だけど、ここだわ」
　元村長の仲人で結婚し、家族ぐるみで別の町に移住している一家というのは『名乗り出てくれた』人の家なのだ。そして、誰かが『名乗り出た』年には、明らかに畑の収量が増え、冬越しの死者も出ていない。
　イナゴ様への奉納神事については、収穫の一部を祭壇に捧げる、とあるだけ。

（これだけマメに記録している人が、神事の事だけぼかすなんてあるかしら？　それに、農村の守り神がよりによってイナゴだなんて）

　イナゴは、人間にとっては畑を食い尽くす害虫だ。なのに収量が上がっているという事は、イナゴ様は畑を襲っていないのだろう。

　――イナゴ様は『収穫の一部』で満足していたのだろうか？

　首を傾げ、美野梨は別の人が書いた日記に移った。日付は二年前程度になり、割と最近だ。
「……あら、この日付……グロッタさん達から聞いていた日より、未来になってる？」
　依頼を受けた際に、アレシスの村がイナゴに襲われた年月日は聞いていた。なのに、それよりも後の日記だ。
　記されているのは慎ましくも幸せな日常。村の滅びなど、最初から無かったかのように。
「あ、あの！」
　薄ら寒いものを感じ、美野梨は管理人に声をかけた。なぜ未来の日記がここに？　と言った途端。
「いや、ここはずっと続く場所でして」
「えっ？　だってそんな」
「特におかしいところは無いですよ」
　管理人の声が徐々に低くなる。ガサガサと、壊れかけのスピーカーのようにひび割れてゆく。
「ひっ」
「何度だって繰り返すんだァァ！」
　美野梨に伸ばされた管理人の手が、黒いもやのようにぶれて――無数のイナゴとなって飛び散った。

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