【星幽塔】第一階層　黄金色の麦畑を、何度でも｜リアクション

【星幽塔】第一階層　黄金色の麦畑を、何度でも

　――またか。
　突然の転移に、月原想花は少々よろめいた。
　目の前に広がるのはファンタジーゲームのような星幽塔、サジタリオ城下町だ。
　空色のとんがり帽子に同色のマントという格好は、ここにふさわしく魔法使いらしい。
「ここの場合、チートして無双……ってことはないんだよね。現実は……厳しい」
　Ｂａｒアストラルで依頼を受けて、アレシスの村へ赴いた想花の目に映ったのは廃墟でしかない――筈だった。
　虫の羽音と共に世界は一変。のどかな農村に戸惑っているうちに一日が終わってしまう。
　だが、村の異常は既に想花の目前にあった。
「やっぱり、村の人達……昨日と同じことをしてる」
　同じ、と言っても全てではない。食事の献立だとか、話題の差違はあるのだ。
「ティム君、こんにちは」
「あ、想花お姉ちゃん。こんにちは！」
　想花を助けてくれた狐獣人の男の子が、にっこり笑って挨拶してくれる。
「き、昨日は……助けてくれてありがとう。お兄さんは元気？」
「うん。お兄ちゃんは元気だけど……お姉ちゃんを見つけたのは今日だよ？」
　この後ティムは、疲れているのかと心配し、ベッドとおかゆを用意してくれることを想花は知っている。
　――三回目だからだ。
　想花は「勘違いだった」と言ってティムの申し出を辞退し、不安なまま歩き出す。
　二回目は気のせいか、記憶違いかと思っていた。
　でも、三回目はそうもいかない。
「はぁ……これ、ループってやつだよね」
　朝起きてから昼過ぎまで、村の各方面で聞き込み調査をするも、ループを裏付ける情報ばかりでがっかりだ。
「桜井くん！　図書館の管理人さんが……！」
「ど、どうした神野？　顔色が真っ青だけど」
　とぼとぼ歩く想花の前に、金髪の少年とうろたえる眼鏡の少女が現れた。

（この二人、昨日いたっけ？）

　そっと聞き耳を立てていると「管理人がイナゴの群れに変わり、溶けて消えた」という、信じがたい話をしている。
　どうも彼らは、アレシスから出る為に情報収集をしているらしいのだが――そんなことをする必要がある人間は、限られている。
　想花はどきどきと高鳴る胸を抑え、勇気を振り絞って、口を開いた。
「あ、あの！　あなた達もアストラルで依頼を受けてきたの？　この村がループしてると知ってるの？」
　二人がこくりと頷くのを見た途端、想花は心の底から安堵した。体から力が抜けて座り込んでしまったのは、ちょっと恥ずかしかったけれど。

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