【星幽塔】第一階層　黄金色の麦畑を、何度でも｜リアクション

【星幽塔】第一階層　黄金色の麦畑を、何度でも

　ラッセルは星鳥のマフラーを首に巻き、廃坑の作業小屋に入って、そっと坑内地図を検めた。供物を乗せた荷車と一緒だ。
「うへぇ、汚れと破れであまりアテには出来ないな」
「問題ないさ。私の記憶と照らし合わせながら行こう。ループの度に、少しずつ薬草採りにきてたからね」
「へぇ、あんたやるな」
　驚きで目をまん丸にしたラッセルに、ティオレはウィンクしてこう言った。
「盗賊ってのは、記憶力が抜群じゃないと務まらないからね」
　自前のランタンに火をともし、廃坑内に進んだ後は、ティオレの方が驚く番だ。
「そのマフラー、光るのかい？　周りが明るくなって作業がやりやすいね」
「ふふん、初めて鍛冶屋で作ったんだぜ」
　２人はしばらく鍛冶屋の話で盛り上がり、薬草の採取は２つの明かりとティオレの記憶、地図もあってかなりはかどった。
　地震も、起こると分かっていれば対処のしようがある。
「きっと、ここがイナゴ様の祭壇だな」
　坑道を歩いて辿り着いた、明らかに人工物の扉を見てラッセルはふぅ、と一息ついた。明るい所で見れば、彫刻のある豪華なものだ。
「アレシスの栄えは生け贄と引き替えだったんじゃないかって話だったね」
「俺は、最初っから人間を捧げてたなんて、思いたくないけどな。薬草も取り終えたし、合流の為に一旦帰ろう」
　２人は荷車を扉の前に残し、その場を後にした。

◆

「いい薬草がある？」
「えぇ、そうなの。星幽塔の第三階層、妖精杜の畑で育てたものよ。煎じて飲んでみて。高い治癒効果があるわ」
　パン屋の裏で美野梨がそう言うと、レクスとミーシャ――銀髪の狐獣人の少女――は顔を見合わせて不思議そうだ。
　実際に星形の薬草を飲んだミーシャが、ほっと表情を和らげるのを見て、レクスも泣きそうな笑顔になった。
「薬草、本当にありがとう。でも、ミーシャの病気はどうしたら治るか分からないし、いつまでもご厚意に甘える訳にはいかないよ。俺が廃坑に薬草を採りに行きたいんだ」
　想花がミーシャのベッドを整えて、食器を洗ってくれるので、美野梨はレクスを外に連れ出した。彼の腰ベルトにはすでに組紐付きのお守りがぶら下がっている。
「レクス、地震の後に廃坑に行くのは危険すぎるわ。薬草は待てばまた生えてくるし、肥料をあげれば早く育つもの。薬草が育つまでの間なら、さっき渡した量で間に合うと思う。それに、桜井くんとユリウェイスさんが、薬草を採りに行ってくれているわ」
「そんな、人様を危ないところへなんて行かせられないよ」
　美野梨が「あの２人なら大丈夫よ」と言うよりも早く、なぜかティムの声がした。
「あそこに行っちゃだめ……邪魔、しないで……」
　振り向くと、そこには鬼気迫る様子のティムがいた。
　足下には花束が落ちているから、見舞いに来たのだろうか。しかし、美野梨とレクスを見るティムの目は、ぎらぎらと真っ赤に燃えている。
「ティム？　どうしたんだ？」
「僕はずっとここにいるんだ！」
　レクスが弟に駆け寄ろうとすると、どこからか現れたイナゴの群れが彼を殴りつけ、ティムを包んで飛び去ってしまった。
「月原さん、大変！」
「え、どうしたの？」
「イナゴ様がティム君を連れ去ってしまったの。行き先は多分、廃坑よ！　桜井くん達に知らせなくちゃ！」
　驚く想花だったが、すぐにぶるぶるとかぶりを振って、美野梨と一緒に走り出した。

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