【星幽塔】第一階層　黄金色の麦畑を、何度でも｜リアクション

【星幽塔】第一階層　黄金色の麦畑を、何度でも

「はぁー、初っぱなから手荒いねぇ」
　ティオレ・ユリウェイスは嘆息して空を見上げた。
　事の始まりはＢａｒアストラルの依頼だ。廃墟に行ってしまった息子ティムを連れ戻して欲しいという、特段珍しくもないもの。
　無論廃墟には誰もおらず、子供を探すのに骨が折れるかと覚悟したその時、唐突に虫の羽音がして――頭がくらくらして――。
　かぶりを振ったティオレが、再び立ち上がった時、辺りの風景は一変していたのだ。

　廃墟だった筈の場所が、のどかな農村へと。
　そこで狐獣人の兄弟、レクスとティムに助けられ、アレシスという農村を案内してもらった。
　一晩の宿と食事をやっかいになり、翌日事情を話そうとすると――前日と同じ出来事が繰り返されたのである。
　めまいと、兄弟による助け、案内、食事と睡眠。

（さて、昨日のメモは……リセットされてるか）

　２日目を終えた時は念のため、とつけておいたメモは、３日目の今日ではまっさらになっていた。
　しかしそれは『この村が同じ一日を繰り返している』というティオレの疑惑を裏付けるものだ。

（ループでリセットされないものは、自分の記憶と元から持っていた物だけ、か。一応、村から出られるかどうか試してみようかな）

　３日目の朝を迎えたティオレは、伸びをして、村の出口に歩き出す。その背中を、何匹ものイナゴがじっと見送っていた。

◆

「いらっしゃい、桜井さん。こちらへどうぞ」
「失礼します」
　桜井ラッセルは、勧められた椅子に一礼して腰を下ろす。アレシスの村長は、眼鏡をかけた小柄なリスの獣人だ。
　ループを複数回経験したラッセルは、脱出の鍵は村の守り神であるイナゴ様にあると踏んでいた。
　同じようにループに囚われた神野美野梨と共に、手分けして情報収集に努めているというわけなのだ。
「えーと、イナゴ様と奉納神事について覚えていることはないか、というお話でしたね」
「ぜひ、お願いします」
　ラッセルはメモ帳を片手に身を乗り出した。
　イナゴ様を奉る儀式は、村長の曾祖父の代に確立されたものだが、当時幼かった村長には詳細を教えなかったのだという。
　おぼろげな記憶では、イナゴ様への供物を廃坑に持って行く役目の人がいた筈なのだが――
「その人をどうやって選んでいたのか、何も記録が無くて。両親は急死してしまって、どう神事を進めたものかと困っているんですよ。供物は私が入り口近くに置いてます」
「なるほど。鉱山の地図はおありですか？」
「あるにはあるんですが……最近地震も起こっているので、地図の通りとは限らないし、危ない所に人を行かせられませんから」
　記録といえば図書館だが、そちらには美野梨が行っている。ラッセルは別の質問をすることにした。
「曾祖父、ということは……あなたのお家は代々村長をしてらっしゃるんですか？」
「えぇ、そうなりますね。私も幼い頃からよその村に修行に出されたりしたものですよ。……あぁ、そういえば」
　村長は、ふと思いついたように尻尾をぴくりと動かした。
「他の村に修行に行ってから、アレシスの栄えを不思議に思うようにはなりましたね」
　首を傾げるラッセルに村長は続けた。
　元々鉱山町として生まれたアレシスは、特段土地が肥えている訳でも水源が潤沢な訳でもない。よその鉱山町は、鉱脈が尽きれば衰退していったのに、と。

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