あなたは、依頼主に貰った地図を見ながら、辺りを見回して呟きました。
「ここがアレシスの村だった場所……か?」
見渡す限りの荒野には、青草が一面に生えています。
どこが村の境目だったのかは、今となっては分かりません。かつては畑だったらしい場所にしゃがみ込み、あなたは土を握ってみました。パラパラと乾いて、手からこぼれ落ちるそれを。
(以前は麦畑をやっていたそうだが……あまり肥えた土地ではないようだ)
青草の群れに古い家が放棄されています。あなたが村を歩き回ると、草むらの中をぴょんぴょんとイナゴが飛び交いました。
枯れた井戸をのぞき、放棄された農機具を触ってみます。
そっと、古い家に足を踏み入れてみました。
(ふむ、生活に必要なものは持ち出されているようだ。……それにしても、よくもまぁこんな辺境の土地に村を作ろうと思ったものだな……開拓者精神というやつか?)
依頼人のグロッタ夫妻の話では、8歳の子供を連れ戻して欲しいということでしたが、子供どころか人っ子一人いません。
あるのは廃墟と、朽ちた道具と……イナゴだけはやたらいます。生きたものも、死んだものも。
部屋にある椅子の構造を確かめて、腰をかけた、その時の事でした。
――ブーン……
――ブーン……
突然、耳を聾するほどの虫の羽音。
あまりのうるささに目をつぶり、耳をふさぎます。
「お兄ちゃん、大丈夫? お水、飲める?」
再び目を開けたその時、なぜかあなたはベッドに横たわっていました。
ベッドの傍らにいる男の子――狐の耳と尻尾をもった獣人――が差し出してくれたコップを受け取り、飲み干します。
先ほどまで廃墟だったはずなのに、ここはこざっぱりと片付いた民家のようです。
「ありがとう。ここはどこなんだろう?」
「ここはアレシスの村だよ。お兄ちゃんは村に入る道で倒れていたから、僕のお兄ちゃん……レクス兄ちゃんが助けて連れてきたんだ」
「レクス? まさか……」
あなたは息を吞み、呼ばれてこちらにやってくる獣人の少年見つめました。年の頃は15、6といった具合の、白いシャツ、青いベストとズボンを身につけた彼を。
「助けてくれた事には礼を言う。君たちはグロッタご夫妻の息子さんだろうか?」
「は、はい。父と母をご存じなんですか?」
「あぁ。君たちのことは良く聞いてきた」
あなたはそう言って水をもう一杯もらい、ベッドから立って伸びをしました。
レクスというのは、保護を依頼されたティム少年の兄で、夫妻が亡くしたという長男の名前の筈です。
(何か、情報を聞き違ったのかもしれない。まさか、親が生きている息子を死んだことにはすまい)
そう思ったあなたは、グロッタ兄弟に頼んで、村を案内してもらうことにしました。
先ほどまで見ていた廃墟とは似ても似つかない、村人の笑顔と活気にあふれた姿がここにありました。水源は涸れるどころか子供が水遊びをするくらいの潤沢さで、小高い丘の上からは黄金色の麦畑が、風に波打つ様が望めるのです。
(おかしい……村が滅びていないなら、依頼と私がみた廃墟は何だったんだ?)
あなたはそう不思議に思いながら、グロッタ兄弟の家で食事と宿をやっかいになり、眠りにつきました。明日になったら2人に事情を話し、一緒に依頼人のところへ同行してもらおう――そう思いながら。
――しかし。
「お兄ちゃん、大丈夫? お水、飲める?」
翌朝、あなたが目にしたものは、前日と全く同じやり取りでした。
水を飲み、レクスを紹介され、村を案内され……2人に昨日の事を聞いても、「お兄ちゃんを見つけたのは今日だよ?」と不思議そうに返されるばかり。
村人に話を聞いても反応は同じでした。
(まさか……ループしているのか?)
あなたは空を見上げてため息をつきました。
簡単だと思っていた依頼は、どうもそうではなさそうです。
皆様こんにちは。 陣 杏里です。
最近素敵な廃墟写真集を見る機会がありましたもので、
この度は滅びた村を舞台に『ループ+郷愁+謎解き+ホラー』なシナリオをお送りします。
シナリオ概要
皆さんは、ある日Barアストラルでこんな依頼を目にします。
星幽塔の第一階層で小料理屋を営む狐獣人、グロッタ夫妻から寄せられたものです。
◆廃墟に行ってしまった息子ティム(8歳)を保護し、連れ戻して欲しい
・廃墟の場所は星幽塔第一階層にある村アレシス。黄金色に実る麦畑が美しい故郷だった。
・しかし、村はある日突然、イナゴの群れに襲われ滅びた。イナゴは村の守り神だったのに、何故襲ってきたのか
分からない。
・襲撃の際、自分たち夫婦は出かけていて助かった。ティムは木の箱に隠れていたのを見つかった。
・生き残った人々と村を再建しようとしたが、水源は枯れ、作物は育たなくなったので村を放棄した。
・先日ティムは誕生日を迎えたので、長男レクス(故人)が襲撃前に用意していたらしいプレゼント
(小振りのナイフ)を渡したら、懐かしくなって行ってしまったのかも知れない。渡さなければ良かった。
グロッタ夫妻は、故郷を失った際に長男レクスを亡くしています。このまま次男まで帰らなかったらと、気が気でない様子です。
何が出来るのか?(アクション)
アレシスは街道の要衝にある訳でもなく、観光の目玉もないのどかな村でした。しかし、現在は滅びの前日を繰り返すループ状態の中にあります。(なので、襲撃の際に亡くなった人も生きています)
住人の記憶はループでリセットされますが、PCの皆さんはその限りではありません。
皆さんの目的は、『ティムを保護し、共にループを脱出すること』です。
<アクションの一例>
・やっぱここはループの原因を推察したい。村の人達に聞き込みし、名推理を披露しちゃうぞ!
・パン屋さんを手伝いつつ、ミーシャ&レクスと交流。カップル観察でニヤニヤ。
・ティムが目覚めることがループ脱出の鍵なのかも? 彼に会って目覚めるよう説得しよう。
・レクスの薬草取りに、護衛&お手伝いとして同行。坑道で何があったのか確かめるんだ。
・ひたすら恐怖に翻弄され、虫が、虫がァァ! とパニックになるうちの子を描いて欲しい。
・もちろん、自由に考えることもOKです。
↓村ではこんな話が聞けます↓
◆村長さんの家 →主に村の歴史について教えてくれます
・アレシスの村は元々鉱山だったが、鉱脈が枯れて閉山した。その後は麦畑をやっている。
・水源に恵まれ、麦畑の実りもよく、栄えているのはイナゴ神のおかげ。
・しかし、時の流れと共に、神殿の場所と奉納神事の詳細が不明になって困っている。
◆村の女性たち →女性の井戸端会議です
・ティムは今年6歳になる男の子。家の手伝いをよくするしっかり者だ。
・ティムの兄レクスは、病弱なパン屋の娘、ミーシャと付き合っている。
・廃坑は村はずれにあるが、先日の地震で崩れたかもしれない。行ってはダメ。
◆グロッタ家 →ティムが1人で家の片付けをしています
・両親は用事があって出かけている。
・村が滅ぶ前は持っていなかった、兄からのプレゼントについては、『なぜ持っているのか分からない』と言う。
・兄のレクスは、パン屋のミーシャを見舞いに出かけている。
◆パン屋 →表は通常営業です。裏口にはレクスとミーシャがいます
・裏では、ミーシャとレクスの「今日はティム君の誕生日でしょ。一緒にいてあげたら」「見舞いに来たのにひどい
な」という、冗談めかしたやり取りが聞ける。
・レクスはミーシャの病に効く薬草を採りに廃坑に通っているが、最近量が採れなくなったことが悩み。
・ミーシャは、薬草のためにレクスを危険な廃坑に行かせることを心苦しく思っており、飾り石に紅白の組紐を
結んだお守りを贈った。
◆図書館 →のどかな農村には珍しい、立派な図書館です
・村長のひいおじいさんの手記
村の日常(天気や作物の取れ高、冠婚葬祭)を記した実務的な記録。鉱山が閉じてからのもの。
『○月2日 小麦の収穫が進むも、豊作にはほど遠い。冬を越せるかどうか不安』
『○月25日 畑も山の実りも乏しい。冬越しは絶望的。気は進まないが、今年も誰かに立ってもらう他ない』
『○月10日 ○○家のネイファが名乗り出てくれたので、土下座して詫びる。彼女の老いた両親に不自由はさせないと誓約する。儀式の準備に入る』
以降、豊かな実りと水源に恵まれる記述が続く。
◆廃坑 →古い作業小屋に、ボロボロの作業日誌があります
・鉱山の作業日誌と詳細な地図
閉山前、鉱山の責任者の手による日々の作業内容と産出量の記載。年々減っていることが分かる。
『○月○○日 今年に入って産出量は減るばかり。新しい鉱脈を求めて掘り進めると、広い空間を掘り当てた。鉱脈では無いので皆と落ち込むが、何かの神殿らしい。神様の像もあるし、お祈りしてみるか』
以降、神頼みでは鉱脈が見つからず、閉山に至るまでの記述が続く。
▼悪夢
皆さんは調査の途中、眠るごとにこんな悪夢を見るかもしれません。誰かの記憶でしょうか?
・大切な人のために、一生懸命薬草を探している夢です。いつもある筈の場所に、今日に限ってはちっともありません。仕方ないので、暗い坑道に入ることにしました。奥では何とか薬草を確保できましたが、地震が起きて天井が崩れ、更に奥に逃げることになってしまいました。大切な人がくれたお守りを握り、出口を求めて歩くその先に、大きな扉が見えてきました。ランタンを床に置き、重たい扉を少しだけ開けた途端。どっ、と黒いもやのようなものが吹き出してきました。体中をたかられ、痛くてとても目を開けていられません。
取り落としたお守りに結ばれた、紅白の組紐。それが、最期に見たものでした。
・なぜだか分かりませんが、暗くて狭いところにずっと閉じ込められている夢です。大昔はあなたを称える声と食べ物が豊富にあったような気がするのですが、今となっては思い出せなくなってしまいました。
昼も夜もなく、ただひたすら、おなかがすいて、のどがかわいて仕方がありません。
そんないつ終わるとも知れない苦しみの日々に、突然光が差し込みます。
あなたは、開けられた扉から、一気に外へ飛び出しました。
▼恐怖体験
調査が進むごとに、こんな怖い目にあうかもしれません。村には皆さんと住人達以外に、誰かいるのでしょうか?
・ブーン、カサカサ……耳から消えない虫の音
→刺された! と思ったら、何かが皮膚の下でうごめいている……ような気がする。
・水を飲もうと思ったら、コップにびっしり虫が浮いている
→取り落としたコップからこぼれたのは、透明な水だけだ。
・「なぜループを脱出しなければならないんだっけ?」調査をしている理由が分からなくなってしまう。
→風の音が人の声に聞こえる。「しっかりしろ! 出られないと死ぬぞ!」
・村滅亡後の日付が書いてある日記を図書館で発見。
→管理人に質問すると狂乱して襲ってくるも、イナゴの群れに変わり、溶けて消えてしまう。
NPC紹介
・ティム・グロッタ(6歳)
茶色の髪に狐の耳とふさふさの尻尾を持つ、元気な獣人の男の子です。滅びた筈の村に囚われていますが、彼自身はその事に気づかず幸せに暮らしています。レクスとミーシャのことは兄ちゃん、姉ちゃんと呼んで慕っており、お店のパンも大好きです。PCさんがループや脱出について触れなければ、歓迎してくれます。
・レクス・グロッタ(16歳)
ティムを可愛がる10歳年の離れた兄で、麦畑を受け継ぐことが決まっている跡取りです。パン屋の娘であるミーシャとは、最近やっと付き合いを許され、病弱な彼女のもとへ三日とおかず見舞いに通っています。
渡そうと思っていたプレゼント(小振りのナイフ)を既にティムが持っている事は不思議に思っていますが、「俺の勘違いかな?」と深く考えていません。
・ミーシャ(16歳)
レクスとお付き合いしている狐獣人の少女です。持病のため幼い頃から伏せがちで、レクスとティム兄弟の訪問をとても喜び、たまにお店のパンをご馳走しています。頑固な父がレクスとの付き合いを許してくれた時は、天にも昇る気持ちでしたが、気恥ずかしさからあまり面には出しません。
レクスに渡したお守りは、環状の石に組紐を結んだもので、母親に教わってミーシャが手作りしました。
星の力
星幽塔にいると、星の力 と呼ばれる光が宿ります。
★ 基本的な説明は、こちらの 星の力とは をご確認ください。
星の力やその形状は、変化したりしなかったりいろいろなケースがあるようですが、
このシナリオの中では変化しませんので、このシナリオではひとつだけ選んでください。
ひとともれいびにはひとつだけですが、
ほしびとには、第二の星の力(虹)もあります。
★ 虹についての説明は、こちらの 第二の星の力 をご確認ください。
アクションでは、どの星の光をまとい、その光がどのような形になったかを
キャラクターの行動欄の冒頭に【○○の光/宿っている場所や武器の形状】のように書いてください。
衣装などにこだわりがあれば、それもあわせてご記入ください。
衣装とアイテムの持ち込みについて
塔に召喚されると、衣装もファンタジー風に変わります(まれに変わってないこともあります)
もちものは、そのPCが持っていて自然なものであれば、ある程度持ちこめます。
※【星幽塔】シナリオのアクション投稿時、作物・装備品アイテムを所持し、
【アイテム名】、【URL】を記載することで、
シナリオの中で作物(及びその加工品、料理など)・装備品を使用することができます。
※URLをお忘れなく!!!
※オーダーメイド装備品について
鍛冶工房のトピックを経る(またはシナリオなどで得る)場合のみ
アクション冒頭で指定した星の力とは別に、装備品固有の《特殊効果》が認められます。
アイテム説明欄に、トピックでの完成時の書き込みURL・シナリオ入手時のURLを記載してください。
例:http://rakkami.com/topic/read/2577/2116