あいしあってるかい？どよーんとくろやきやきそばぱんとかげ♡｜リアクション

あいしあってるかい？どよーんとくろやきやきそばぱんとかげ♡

　
　ゲーミングパソコンのアメリアは、宅配便の荷台に乗って旧市街まできていた。
　今はとある路地に停車中だ。
「順調だけど、愛用のモニターを霊界に置いてきてしまったわ」
　ひとりで行くことが寂しくなってきたのだろうか、運がよくても悩みは尽きないものである。
　辺りを見回してみるが、
「お喋りの相手もいないわね、ここには」
　とため息をひとつ。
　そんなアメリアに声をかける者がいた。

「ここにいるよ、あたしが見てるよ」

　声の主は近くのアパートの中、窓越しにアメリアを見ていた。
「あたし、姫之崎ありあ。13歳、中学１年生」
　それは、窓辺に飾られた小さなフィギュアだった。
「あたし、どこにでもいる普通の女の子よ。……なぜか魔法少女に選ばれちゃったけどね。そう、『魔法少女ミスティックアリア』とはあたしのこと。世界に大いなる神秘の輝きを！」
　クルッとまわってポーズをつける。
「といっても、あたしはフィギュアなんだけどね。魔法とか使えるわけじゃないし。この声も聞こえてないでしょう？」
　そう言うとポーズを解いて、ふうと窓を背によりかかる。
「出ておいでよ」
　アメリアが声をかけた。
「え？　聞こえるの？」
　ありあが顔を上げ、窓越しにアメリアに声をかける。
「誰なの？」
「こっちはしがないゲーミングパソコンよ」
　配達員が戻ってきて、自転車は発進する。
「外に出るのよ」
　そう言い残して、アメリアは去っていった。
「ありがとう」
　ありあはそっと窓のすきま風から外の空気を吸った。
「あれ？　……このにおい、なんか香ばしい。なんだろう……って、黒焼きトカゲ？」
　ありあは決心がついた。
　気づいたら体が動いていた。
　そっと部屋を出て、今、身長２５センチの大冒険が始まる。
　走って、跳んで、人をかわし、自転車をかわし、物陰から物陰へ。
　このフィギュアの形と大きさでちょこまかと動き回っていると、どうしても別の危険が出てきてしまう。

「にゃあ～」

　目の前に現れたのは、野良猫のボン太だった。
「なに？」
「にゃご～」
「なんで睨んでくるの？」
「にゃごご～」
　ボン太は今夜イヤなことがあったようで、妙に機嫌が悪い。
「うそでしょ？」
「……」
　獲物を狙うときのようにお尻をふりふりしているボン太。
　次の瞬間、
「やめてー！」
「にゃごー！」
　ありあは逃げる。
　自転車を駆け上がり、じょうろの中に隠れ、塀の透かしブロックを通り抜ける！
　なんとかして猫に襲われないように、身を隠せるところを見つけては走りまくって……ふと気がつくとボン太はいなくなっていた。
　ただし、別の問題が発生していた。
「ここどこ？」
　見上げると、病院だった。
「はぁ、具合悪くなりそ。なんかもう黒焼きトカゲなんかどうでもよくなったわ」
　猫との追いかけっこでだいぶ消耗したようだ。
「それよりもう家に帰らなきゃ……って、うわぁ、あっぶな！？」
　建物から出てきた看護師に、踏まれる寸前だった。
　ありあには目もくれずに進んでいくその看護師の名は、四夜五栖手蹴。
　その真の姿はいずれわかるだろう……。
　