歴史研究部の島研究：百合ヶ淵編｜リアクション

歴史研究部の島研究：百合ヶ淵編

●歴史の真相

「左様なことが……わたくしたちのために苦労をかけました。伏してお礼申し上げます」
　鼻岬洞窟に身を隠していた白百合と駒は、自分たちの身代わりとなった遥たちの身を案じて気を揉んでいたが、無事に洞窟に現れた彼らから事の次第を細かに聞いて深々と頭を垂れた。
　顔を上げた二人の顔には心からの安堵が浮かんでいる。
「これから大変だろうけど、ひとまず追っ手は追い返したし何とかなるかな？」
　蒼也が尋ねると駒は、はい、と頷いた。
「明朝までここに身を隠し、早朝詣での者に助けて貰おうと思います。そのあとは……」
　白百合と顔を見合わせ。
「旅芸人の一座にでも紛れて西へ行こうかと。私は武芸には覚えがありますし、姫も舞を嗜んでおりますゆえ」
　笑む。
　彼女たちには未来があるのだ。
　誰かに決められた道ではなく、自分で切り開いてゆく道が。
　作戦の要となった小次郎は彼女たちの決意を眩しく思い目を細めた。
「これで二人も自由になれるな。この先まだ困難はあるだろうけど新たな門出を祝福するぜ」
（誰にも言わないが正直２人が羨ましい。あたしもこんな駆け落ちがしてみたい！）
　名前も言葉遣いも男っぽいが、小次郎だって恋する乙女なのである。
　そんな小次郎を微笑ましく見守りながら、遥はむふふと唇を笑ませる。
「ふふ、良いよね。恋愛は。私は特に『愛』ってものは特別素敵なものだと思うんだ。もし朝まで時間があるなら、すこし話でもしない？　未来に戻るのを急ぐ理由もないし、寧ろせっかく来たんだからこの時代のことをいろいろ知りたい。二人の馴れ初めとかも聞いてみたいな！」

　もしもお礼がもらえるなら、どんなものより、生の話がいい。
　遥がそうねだったので、皆は火を熾し持っていた食べ物を分け合って、まるまる一晩語り明かした。
　足軽の家に生まれた駒は、もともと馬に乗るのが上手いと評判の娘だったが、父が病に倒れて足軽の仕事に就けなくなったことを機に木天蓼城に仕えることになったそうだ。姫と同じ年頃で、女だということで、護衛に取り立てられたのが約１年前。それから互いに惹かれ合い、お互いにしかできぬ話などを明かし合ううちに、愛を育んできたのだという。ふたりの生い立ちの合間に、この時代の暮らしぶりや食べ物などについても聞くことができて、歴史研究部の遥としては大満足。時を忘れるほど話して、気づけば夜が明けてきた。

　海が桃色に染まる頃、小船を漕いで早朝詣での老婆がやってきた。
　老婆はふだん人気がないはずの鼻岬洞窟に若者たちが集っていたことにも、未来の者たちの出で立ちにも驚いたが、その信心深さから神仏の計らいと思ったようで、詳しいことを訊ねずに白百合と駒を対岸まで乗せてくれることを了承してくれた。
「ありがとうございました！」
「皆さま、お達者で！」
　ゆっくりと岸を離れ行く小船へ向かってマリエッタと想花が大きく手を振って見送る。
　ほかの者たちも言祝ぐように声を張る。
「この先まだ困難はあるだろうけど新たな門出を祝福するぜ！」と小次郎。
「元気でな。幸せになれよ！」と蒼也。
「逃げ延びたらその愛、貫けよ……！」とラッセル。
「どうかお幸せにね！」と遥も願う。
　――２人には是非生き残ってもらいたいな。
　――お姫様に良いことありますように。
　それは願った相手に暫くの間、強運を授ける無自覚のろっこん＜青春の閃き＞の発動を招いた。
　小舟が朝日の白い光の中に消えゆく。
　白百合と駒に授けられた強運は、二人を善き未来へと導くことだろう――。

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