「
百合ヶ淵……戦国時代、女二人が身投げした悲恋の地だっけ」
歴史研究部部長の
夏風 遥は、部活の一環で寝子島に伝わる百合ヶ淵伝説について調べていた。
「そうそう。寝子島の北西、鼻岬洞窟の傍にある崖でね。戦国時代、木天蓼市にあった木天蓼城の姫と足軽の侍女が恋に落ちて駆け落ちをしようとたものの、城からの追っ手に追い詰められ、来世で結ばれる事を誓い崖から共に身を投げたという伝説が残っているんだ」
話をしてくれたのは、
湯川 馳夫。東京で仕事をしている建築家だが、よく寝子島にも足を伸ばしており、霊感の強い奥様といっしょに歴史の深い心霊スポットに出かけることもままあるのだという。
落神神社で待ち合わせた遥と馳夫は、姫と足軽の侍女が城からの追っ手から逃げたという山道を辿っていった。数百年の時を経ようとも、山や森はそう変わらないものだ。峻険な崖っぷちまでの道は獣道のような荒路ながら残っている。この道を辿ることで、戦国時代の恋する二人の気持ちを辿ることはできるかもしれない。
「けっこう険しい道だなあ」
遥は張り出した枝を押しのける。
道と言えば道だが、下草は伸び放題。鬱蒼と濃い緑の木々が覆いかぶさってくるようだ。
と、突然、前方の茂みがガサゴゾと激しく揺れた。
「気を付けて」
馳夫が遥を守るように身構えたその時、茂みの中から具足を身につけた結い髪の女性と、紺地に白百合の着物を纏った長い黒髪の女性が現れた。具足の女性は着物の女性を守るように刀を突きつけてくる。
「何やつ。木天蓼城の者か」
「ま、木天蓼城?」
遥はぶんぶんと首を振る。
「私は寝子島高校の歴史研究部の者で……こちらの方は歴史に詳しい建築家さんだよ」
「ねこじまこう……? けんちくか……?」
具足の女性が胡乱気な顔で刀を握りなおすと、着物の女性が彼女を手で制した。
「
駒(こま)。この方たちは追っ手ではないようです」
「は。
白百合(しろゆり)様」
「そなたたち。その不可思議な装束を見込んで頼みます。我らを助けてはくれませぬか。追われているのです」
遥と馳夫は顔を見合わせる。
もしや彼女たちは百合ヶ淵の伝説にある姫と足軽ではないだろうか。
遥はスマホを開いてみた。圏外。しかも時刻表示がバグっている。
――タイムスリップ。
そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
どういうわけか自分たちは、伝説上の二人がまさに駆け落ちしている瞬間に出くわしてしまったようだ。
「島の端にある鼻岬洞窟には神仏が祀られており、早朝には小舟で詣でに来る者もあると聞きました。洞窟に隠れれば追っ手も諦めるでしょうし、参拝の者に助けを求めることも出来ると思うのです。……そこまでの護衛を頼めませんか」
「鼻岬洞窟……」
言い伝えが正しいとすると、二人はそこまで逃げることができず、崖に追い詰められて身を投げたということだろうか。
馳夫はそっと遙に耳打ちした。
「ここで手助けしたら歴史を変えることになるのかね」
「あるいは言い伝えが間違っているか、だね。ふふっ。上等! 歴史の証人になってやろうじゃない」
こんにちは。
ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
花と緑のイラストキャンペーンのプレゼントシナリオをお届けいたします。
夏風 遥さま当選おめでとうございます。
歴史研究部の島研究ということで、
セカンドマップに存在しつつもシナリオで取り上げられたことのなかった
「百合ヶ淵」(A-5)を取り上げてみることといたしました。
寝子島ミーティングで百合ヶ淵をご提案くださっていた
湯川 馳夫様にもガイドにご登場いただきました。
ご参加いただける場合は、どうぞガイドの内容に囚われず、自由にアクションをお書きくださいませ。
概要
時代は戦国時代です。
寝子島の輪郭は今と同じで落神神社もありますが、
星ヶ丘・シーサイドタウンに街はなく、旧市街のあたりに小さな集落があるのみで
島全体に山と森が広がっています。
当時、本土・木天蓼市付近に『木天蓼城』がありました。
白百合は、木天蓼城主・木天蓼家の一人娘。
駒は木天蓼家に仕える足軽の一人です。
駆け落ちした白百合と駒は、城からの追っ手から逃れ寝子島に逃げ込みました。
もし追っ手に掴まれば、駒は姫をたぶらかした罪で殺され、
白百合は連れ戻されて幽閉もしくは政略結婚で好まぬ男の元へ嫁がされるでしょう。
PCのみなさんは、いつの間にかタイムスリップしており、
ガイドのあとのタイミングで、マップのF-7~E-7付近で
駆け落ち一行に出会うでしょう。
木天蓼城からの追っ手
木天蓼家配下の者で十名ほどです。
木天蓼城主から、白百合を連れ戻せと命を受けています。
その際、白百合は傷つけてはならないが
駒や妨害する者は殺しても構わないと言われていますので、かなり本気でかかってきます。
追っ手は城の中でも手練れで、
日本刀を使う者、薙刀を使う者、弓や投石などの飛び道具で戦う者が組んで
二手に分かれて追って来ています。
不思議な力などはありませんが、命を懸けて命令を果たそうとしてきます。
その他
このシナリオでは、もれいびやひとの他に、ほしびとやあやかしの方もご参加いただけます。
服装は、現代のままだったり、戦国時代の衣装に変わっていたり、お好みでどうぞ。
ろっこんやあやかしならではの能力は自由に使えます。
★NPC、Xキャラ
特定のマスターが扱ってるNPCでなければ、誰でも大丈夫です。
Xキャラもご自由にどうぞ。Xキャラ図鑑の記載はお忘れなく!
ひとのキャラクターは、この状況を夢だと思うことが多いです。