光量は変わらないはずなのに、彼女が入ってくると急に、照明が弱まったような印象があった。
「烏魚子 一紗(からすみ・かずさ)です」
写真と同じだ。ブラウスもスカートも黒、葬式みたいな黒ずくめ衣装に長い黒髪、それだけに肌の白さが際立つ。切れ長の目と暗い表情、美人ではあるが、ちょっと幽霊的というか、恐い雰囲気もある。
「それでは、私から最初の質問に入ります」
口火を切ったのは真遠だ。質問は真遠が主体、星太郎がアドバイザーという役割分担になっている。アーナンドは一次面接を担当したので、今回はほぼふたりに任せると宣言していた。
「志望理由について教えてください」
「昼間のビジネスに疲れたからです。寝子島は地元ですし。私、暗いので華やかな世界への憧れもありました」
「前職は大手商社、海外在住経験もある。立派な経歴をお持ちのようですが、そのキャリアを捨てるんですか」
「履歴だけ見ればそうかもしれませんが……私、ドジで」
「ドジ?」
思わず星太郎が訊き返した。隙のなさそうなルックスだけに落差のある表現だ。
「はい。転んでばっかりでした。あと、重度のゲームオタクです。休みの日はパソコンでFPSばっかりやってます。だから周囲に気持ち悪がられてました」
「FPS?」
星太郎の問いに真遠が答える。
「ファースト・パーソン・シューティングっていうゲームジャンルの略ですよ。撃ち合いで戦うやつ」
「FPSをご存じで?」
きらっと一紗の目に光が宿った。慌てて真遠は言う。
「いや、俺もそんなに詳しくないですが……あ、そうだキャリアの話は?」
「キャリアというなら、商社の同僚はキャリアデザインとか勝ち組転職とかそんなガツガツした話ばかりしていて疲れました。そういうのと関係ない世界にいたいです」
なんか想像してたのとちがうなと真遠は思う。だが面接はつづけなければならない。
「週に何日働けますか?」
「週末含めて来られるだけ。無職ですから」
「お酒は強いですか?」
「呑んで酔っぱらったことがないです」
いずれも即答だ。嘘はないなと真遠は直感した。
ここで「若先生」と星太郎が合図した。仕方ない。英語なんて久々だが、短時間で練習したフレーズを真遠は口にした。
「Explain in simple terms the difference between Uruk-Hai and ordinary oak.」
一紗はいささかも動じず回答した。
「Uruk-hai is a dark word meaning "Orcish". No difference between them and common orcs. But, the word usually refers to the large soldier orcs that appeared in the Tertiary period. They're larger than ordinary orcs, and are considered to be more resistant to sunlight and more powerful.」
ひゃ、と星太郎は首をすくめた。
「何を訊いたの?」
「ファンタジー文学の基礎知識ですよ。彼女、本物だ」
「ワタシ、英語もなんとかできますが、わけのわからない単語があって理解できなかったですよ」
アーナンドも驚き顔である。
それが普通です、と真遠は苦笑した。