スターライト・セレナーデ｜リアクション

スターライト・セレナーデ

　作戦会議室。
　と書けば大仰だが、つまるところここはクラブ『プロムナード』の一室で、臨時の面接会場にすぎない。
　ふかふかのカーペット敷き、ゆったりしたソファ、ミラーボールが天井に輝く店内なのに、照明は最低限で音楽も流れず客も店員もゼロ、横並びに座っているのも男性三人だけというのは、どうにも違和感がありすぎる。
　その一方で、そこはかとなく緊張した空気なのも事実だった。
　なぜならもうすぐはじまるからだ。従業員、つまりキャバ嬢の採用面接が。
「星太郎さんのご見解はいかがです？　経営者目線で」
　もともと濃いめの顔立ちのアーナンドだが、人選に頭を悩ませているせいか照明ゆえか、ますます彫りの深い顔立ちになっている。
「経営者って言っても」
　リラックスしなさいなとでも言うかのように、木野星太郎は悠揚たる口ぶりだ。
「ウチ従業員全員独立させちゃったしネェ。現在進行形でたくさんの従業員かかえてるのはアーナンドちゃんのほうでしょ？　もっとどっしり構えなさいな」
　カバンに手を入れ星太郎は、かわいいハンカチで包まれた弁当箱を取りだした。
「ま、子パンダおにぎり弁当食べて考えましょ」
　お手製よん、と包みをほどくとさらにかわいい案件が発生した。ころころしたパンダが、ひょっこりいくつも登場したのだ。俵おにぎりを海苔でデコレートしたものである。パンダの遊び場をイメージしたのか、芝生のようにレタスがしきつめられていた。華を添えるのはチェダーチーズを切って作ったタンポポ飾りだ。ハムカツと玉子焼きも丁寧に並んでいた。
「わあ星太郎さん、すごいですね！」
「アタシ、ランチがまだでね。いただいていいかしらン？　よかったらおにぎり、おひとつどうぞ」
　いいんですかと言いながら、アーナンドはキュートなパンダを手にした。
「ほら若先生も」
　星山真遠にもすすめる。
　スマホを懸命に打っていた真遠が、びっくりしたように顔を上げた。
「俺もいいんですか？」
「遠慮なくどうぞ～。アタシ小食だから」
　ご覧の通り、と細いボディを軽くシェイクして星太郎は首をかしげる。
「ところで若先生、さっきからスマホとにらめっこだけど、お仕事？」
「いえ」
　真遠は肩をすくめた。
「キャバ嬢の採用面接なんてさっぱりわからんのですよ。うちの事務所で事務員の採用面接をやるのとは次元がちがうなぁ、ということで……その道のプロに相談してました」
「プロというと？」
「文梨みちるという弁護士です。知人なんですよ。元キャバ嬢、それも、弁護士になる前は六本木でも一、二を争う超高級店でナンバーワンだったという」
「あ、その人知ってる！　前テレビに出てたでしょ？　たしか『滴』って源氏名だったっていう」
「よくご存じで」
「そりゃあねえ。彼女これから、どんどん有名になると思うわ」
　アタシの予感って当たるのよ、と星太郎は自信をもって言う。
「その文梨にSNSのDMで候補三人のプロフィールを伝え採用面接のアドバイスを求めたところ、彼女自身、寝子島入りして面接に参加したいと言ってきて……」
「ワオ！　楽しみだわぁ」
「すごいことですよ若先生！」
　星太郎もアーナンドも色めきだったが、それが、と真遠は頭をかいた。
「残念ながら業務のほうの先約があるとのことで、召還はかないませんでした。本人は乗り気だったみたいで、かえすがえす残念とのことでした」
　まったくもって無念だ。実現したとすれば、それこそバハムートだのフェニックスだのに匹敵する最強の助っ人になったことだろう。
「うーん、仕方ないわね。でも、そんな有名人に招集かけられる若先生もたいしたものだわん」
「いやいや、俺なんてまだまだですよ。だけど文梨からアドバイスをもらった面接に活かせると思います」
　あと十五分もすれば面接の開始だ。
　真遠はパンダを口にほうりこんだ。
　アーナンドはネクタイを直し、星太郎は髪をさりげなくととのえる。
　いざ尋常に……！