【創立記念】マスカレード☆トリエンナーレ！｜リアクション

【創立記念】マスカレード☆トリエンナーレ！

●相容れぬ存在の邂逅

　八神修と七夜あおいのコンセプトは、天使と悪魔だ。
「あおいは本当に天使のようだよ」
「そ、そうかな……？」
　仮装用の衣装は自分達では本格的な完成度が出せないと判断したので、修は本職に衣装制作を依頼。
（凄い豪華……舞台衣装みたいだ）
　黒を基調にした貴族的装いのスーツ系の衣装には、本物かと思うくらい精巧に作られた金銀や宝石といった装飾が付いている。
　これを外せば、衣装はまた使える時もあるだろう。
　またこの衣装を着る機会があればいいなと思いつつ、修は衣装に着替える。
「スーツとして使えなくもない。男性アイドルかな」
　着替え終え、全身を鏡を見ながら苦笑する。

　あおいの衣装は、白を基調にしたドレープや飾り布が広がるさながらウェディングドレスな感じに仕上がっている。
　花や宝石の彩りが特徴的で舞踏会とか、パーティで使えそうだ。
　こちらも装飾を外せば、何かしらのイベントがあった時に使えそうな仕上がりに。
「その衣装、ウエディングドレスとしても使えそうだ。でも新しく作りたいよな」
　あおいの緊張をほぐすための軽口だったが、気が早いねと笑われた。
「去年のアニマルウェディング撮影会を思い出すね。結婚するとしたら、ああいった式にしてみたいかも」
　照れながら、あおいは自分の願望を口にする。
　着替えが終わると、二人は背中に三対の大きな翼、耳と手首足首に小さな翼をつける。
　背中の翼は、服内部の電力で動く仕掛けがある。
　これは、天使と悪魔の邂逅と融和がテーマの寸劇を行うための翼だ。
　話しているうちに、二人の出番となった。

　最初にキャットウォークを歩いたのは、天使姿のあおい。
　寸劇のBGMと光効果といった演出は、手伝ってほしいと頼んだ寝子高生が行っている。
　生徒達の協力が必要不可欠だということを熱心に説得したところ、事情を納得して引き受けてくれたのはありがたかった。
　白いドレスに身を包んだ可憐な天使に、観客は見惚れた。
　キャットウォークの中央であおいが立ち止まると、悪魔姿の修がゆっくりと近づく。
　不安そうな表情で修を見るあおいは、拒絶するかのように後ずさる。

　天使は、異なる世界の存在の悪魔を拒絶しました。

　演出協力の生徒は、あらかじめ録音した修のナレーションを会場に流す。
　怯える表情のあおいを可愛いと思いつつ、修は歩みを止めず近づいて来る。
　悪魔とは思えない優しい笑みで。
　距離が縮まった二人は顔を見合わせると、互いに向かい合う。
　天使のあおいは、なぜ悪魔が自分に近づいて来るのか不安げに。
　悪魔の修は、天使に自分の思いを伝えたいと訴えるような熱いまなざしで。
（あおい、俺の思いをこの演出で伝えるよ）
　心の中でそう呟きながら、修は無言で演技を続ける。

　最初は拒絶していた天使でしたが、やがて少しずつ悪魔のことを知りたくなりました。
　互いのことを知りたいという思いが、二人に芽生えたのでした。

　二人が手を取り合い互いをじっと見つめる場面で、祝福するかのように水色のスポットライトが当たる。

　

「貴女と出会えて、俺の世界が広がった」

　悪魔は、天使に出会ったことでそう思ったのでした。
　この後、二人がどうなったのかは皆様のご想像にお任せします。

　寸劇が終わると手をつないだ二人は観客に丁寧なお辞儀をし、キャットウォークをゆっくりと歩いて退場していった。

「八神君の寸劇、すごかったね……」
　豪華な衣装、凝った演出は彼らしいと恵御納夏朝は感心した。
「真剣な演技だったから見惚れてしまったよ。たいしたものだ」
　恵御納夏夜は、舞台袖に戻って来た二人に感想を述べる。
「最後の台詞以外、終始無言だったね。相当練習したのかい？」
　それに対し、修は一生懸命にと苦笑しながら答えた。
「修君、すごく頑張ったんだよ。衣装とか、演出プランとかBGM選びとか」
　お疲れ様、とあおいが労ってくれたことがすごく嬉しい修だった。