寝子島高校・部活王決定戦｜リアクション

寝子島高校・部活王決定戦

「こっちはこっちで、とんでもない事になってるわね……」
　逆巻く水の流れにせき立てられるように、校内の奥へ奥へと侵入していく陸上部、バスケ部、シン体操部。
　一度きりの共闘のはずが、一蓮托生、なんだかお互い協力しあうようになっている。
　明るく人なつこい、陸上部の光村日向の人柄によるものだろうか。
　だが、それよりも……。
　
「ブッヒイイイイイイイ！」

　すでにアイドル研究会と演劇部の魅力攻撃により、従僕と化した生徒たちが大挙して襲い掛かってくる。
　まともに相手はしていられない、機動力によって躱そうとすると、軽音部と思しき音響攻撃、演劇部らしいライフルアタックが襲い掛かってくる。
　周囲がすべて敵という、絶対的不利な状況である。とても運動部同志、互いを潰しあうわけにはいかないのだ。
　
「チェストオオオオ！」

　その人ごみの中から突進してくる、アイドル姿の少女。
　アシュリー・アンダーソン。アイドル研究会の助っ人であり、前衛である。
　一気に陸上部に距離を詰めて、華麗な２ステップからの蹴撃を飛ばす。
「――」
　クール・ビューティの椎井、宙を駆け上がって颯爽と壁を疾駆する。
　陸上部を極めたものは、エア・マスターとして空中まで支配できる。
　アシュリー、ワイヤーワークとも見まがうような、重力を無視した体術でムーンサルトを決める。
「あいおちゃん、アシュリーさん、しっかり！」
　遅れてきた夢乃、アシュリーに声援を送る。
「せいっ！」
　あいおと夢乃、鼓舞のバトルダンスでアシュリーの敏捷を高め、声を物理化しバリケードを築く。
　攻防一体、見事なチームワークのアイドル研究会。
　
　――ああ。
　誰ともなく、ため息が漏れる。
　アイドル研究会が、魅力の技を使うのは、スキルの威力なんてものではない。
　たかだがかりそめのエアーに、なぜ人が心奪われるものか。
　彼らがアイドルに魅了されるのは、アイドルが本当に輝いているからなのだ。
　
「私たちは――アイドルですわ！」
　夢乃が力強くマイクアピールする。
　自分は舞台に立てないと思っていた、気弱な少女はそこにはいない。
　スポットライトを浴びて、スポットライトより激しく光り輝く、真のアイドルがそこにいた。
「アイドルとは、華やかなだけじゃない！　みんなに力を与えるもの！
　――心の在り方、生き様なんです！」
　
　ざわっ。

　聞いた皆の心が震える。
　これが、新たな部活動の息吹。
　
　
　その瞬間――――。
　
「流星、流星、りゅうせーい！！」

　崩壊した天井から、無数の矢が降り注いだ！
　
　寸断された戦場。
　水煙、土煙渦巻く中から現れるのは、天文部。
　
　驚いたことに、彼女たちはほぼ無傷であった。
　校外から校内に移動し、常に最前線で戦闘を強いられていた彼女たちだが、極力までエネルギーを抑えた戦術と、絶え間ない補給により、ほぼダメージをゼロに抑えていた。
　
　ここに至ってついに、天文部、攻勢に転じる。
　アイドル研究会の熱いコールにこたえるには―ー自分たちも全力で応じるしかない。
　
「狂気の恋こそ、真の恋――！！」

　突如躍り出てくるのは演劇部。
　狂恋のアサッシンバニーにして、武器は遠く後漢の三国時代。
　六尺棒、七星刀、大鉾を獲物に、天文部にとびかかる。
　
　だが、三人がスピカに触れなんとする瞬間、彼方から飛来した隕石により演劇部は被弾。
「宇宙の大きさ、神秘……その身に、思い知らせてあげる……」
　銀灰の髪が、ゆらりと揺らめく。
　その華奢な身体が、真珠母貝の色にきらめく。
　全身から発するプラーナか、それとも宇宙に瀰漫するエーテルか。
　いずれにせよ、人知を越えたコズミック・パワーが、スピカの身内から目覚めようとしていた。
　
　右手を振りかざすと、それに従うように凜太郎の矢が降り注ぐ。
「うわっ！」
　スピカのバフと、美野梨の命中修整アップで能力の向上した矢は、のがれるのは不可能。
　
「バフを、たくさんつけて……隕石降らせば……お手軽強い……」

　効率厨の片鱗をみせる台詞をぼそっと呟く。
　生粋のゲーマーとしての顔を持つスピカ。
　
（やはり……）
　その場の部活動、視線を合わせる。
　目立った活動のなかった天文部、やはり切り札を隠し持っていたのだ。
　この場で全力で潰すのみ。
　
「どりゃああああ！」
　ボール、剣道の防具、サッカーゴール、イーゼル、フライパン……。
　あらゆる部活の用具が、一斉に投げつけられる。
　
「黒体召喚――」
　スピカの右手で急速に時空が歪み、マイクロブラックホールが現出。
　唸りを上げる暗黒空間は、あらゆる用具を吸い込んで、異次元に追放。
　そのまま黒体は美野梨に委譲。
　
　（用具が異次元に追放されたら、部活動ができなくなる……）
　手を出しあぐねる一同。
　
　攻撃、防御ともに、いよいよ宇宙的ぶっこわれパワーの変身を見せてきた天文部。
　これが実力か。
　
（むむむ……）

　物陰から様子をうかがう風紀委員会の二人は、天文部の戦いに疑問を抱く。
　小惑星と黒体の召喚は、いずれも天文部にふさわしいスキル。
　だが……。
（それだけではないはず）
　
　こっそりのぞいたスキル構成、持ち物検査。
　そこで覗いたスキルは――。
　
（油断ならないです）

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寝子島高校・部活王決定戦

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