ドガアアアアアアア！！！！！！
「これは……」

　黒沢先生が絶句する。
　天文部の完璧なフェイク。
　前衛攻撃要員と思われた凜太郎は、捨て駒。
　大規模攻撃要員と思われたスピカも、単なるバフ係。
　そして、攻撃支援要員にしか見えなかった美野梨が、全体攻撃を行う。
　
「攻撃効果は……計り知れません……」
　もはや実況でも解説でもない、たんなる感想が漏れる。
「よく考えて、よくこらえたわね。『臥薪嘗胆』なんていう言葉は……久保田先生に教わったかしら」
　白沢先生は生徒を褒めたたえる。
「――これで決まり……ですかね」
「いえ――みんなもがんばっているわよ」
　白沢先生がスクリーンを指さす。
　
「笛吹さん……？」
　愛猫 萌々子が顔を上げると、そこには頭から煙を上げながら「きゅう～」とうめくぴりり。
　風紀委員のスキル「持ち物検査」では、相手のスキルは見抜けても、そのスキルの構成までは見抜けない。
　ぴりりが天文部の真の目的に気づいたのは、まさにソーラレイ・ビームの放たれる瞬間。
　身を挺して萌々子を庇うことで、風紀委員、一名生存。
　
「うーん……」
　頭を振る雨崎 荒太郎。
（ソーラレイ・ビームを直撃したはずなのに……なぜ無事なんだ？）
　そう思って傍らを見ると……。
（鬼の鉢がね）
　途端に記憶がフラッシュバックする。
　ソーラレイ直撃の瞬間、助っ人の獅百合が荒太郎の前に飛び出したのだ。
　白熱する光の中で、見えるはずのない獅百合が、荒太郎に向けて微かに笑ったように見えた。
　それが荒太郎の最後の記録だった。
　
「う……無事でよかった……」
「アシュリーさん！」
　アイドル研究会のあいおと夢乃を庇い、同じくソーラレイのダメージで力尽きる助っ人アシュリー。

（アタシを選んでくれた二人の思いに応える……それがアタシにできること）

　自己犠牲型アイドル！
　がくりと力尽きるアシュリーに、他担当を持つファン達も「推せる！」と号泣したという。
　
「すごいな……尊敬するな……」
　爆発的な回避力で逃げた光村 日向が、羨望のまなざしを向ける。
　
「天文部――何事にも一番の小萩だからこそわかる、真のすごさです……」
　絶対防御のバケツを被って回避した本条 小萩が、小さく感嘆の言葉を漏らす。
　
　先ほどの極大ビームによって、実に残存している部活動の6割程度が壊滅させられた。
　
　だが……。

（まずいわね）
　美野梨が、凜太郎とスピカに視線を送る。
　ソーラレイは初弾に全てをかけていた。
　速度上昇、命中率上昇のバフの重ねがけ、不意をつく攻撃よる効果によって、一撃ですべてを決めるはずだった。
　しかし、風紀委員の事前予測と助っ人達の挺身により、完全制圧とまではいかなかったのだ。
　
（しかたがない……）

　美野梨が予備の望遠鏡を配置する。
　初弾ほどの攻撃は期待できないが、勝負を決定づけるのには十分な一撃――。
　
　ぴりりりりりり――！
　
「天文部さん！　用具の正しくない多重の利用は危険です！」

　凶鳥の声のようなするどい笛の音が響き渡る！
　
　その瞬間！
　ギィン！
　時間が凍結した！
　
「何が起こったのかよくわからねえ……」
　と後にその場にいた者が述べることになる。
　これが風紀委員の奥の手、笛を吹いて相手の動きを止める。ついでに時間も凍結。
　世界を支配する能力ッ！　だがそれを手にしたのは、攻撃専門ではない、風紀委員会。
　
（なんとか攻撃を収めて、穏当に状況をおさめられれば……）

　萌々子がここで切り札を切ったのは、自軍の能力の冷静な判断故。
　もともと「相手の攻撃鑑定」「時間停止」という強大なスキルを抱える風紀委員は、攻撃力に欠ける。
　相手の攻撃を封殺し、とにかく降参させるのが戦略になる。
　天文部の主砲を止めることで、決定的な攻撃力を欠くそれぞれの部活が、戦いをストップしてくれれば……。
　
　その時、停止した時間が動き出す！
　
　望遠鏡を萌々子が没収するのと、美野里が身をかわすのが同時。
　その時、美野里の視界に入るのは――スピカを狙ってハンマーを構える、名も知らぬ部員。
　
「くたばれ、コラァァァァァ！！！」

　力弱いと侮ったか、スピカに突撃する。
　危険なバトルエアーで暴走したか、血走った目がおそろしい。
　
　――危ない！
　
　皆が目を瞑る。
　
　だが――。
　
　恐る恐る目を開いた一同の前には、しかし予想もしない展開があった。
　
「ごめん、それは許容できないかな」

　矢によってくず折れるのは、ハンマーを手にした男。
　その一撃を食らったのは――。
　
「凜太郎！」

　額から血を流し、スピカをその身体で守った。
　――正射必中。
　――その流星は、心の臓を穿つ槍のごとく。
　――一切の情け容赦ない。
　冷静極まりなく、男を排除。

　飄然と、内心をあらわにしない凜太郎。
　クールで謎めいて、何を考えているのかつかみどろこのないスピカ。
　この二人の間にある絆は、余人の知るところではない。
　
　凜太郎の血まみれた手を包み込んだスピカの瞳に揺らいだ光も、
　
　（アークトゥルス……）
　
　というつぶやきの意味も、だから、だれも知ることはないのだ。
　
　その様子を見ていた萌々子、そっと胸に手を当てる。
（鷹司先輩――暴れん坊風紀委員……）
　空を見上げる萌々子。
（気が向いたときしか、活動しない先輩でした……）
　
　――スピカを狙う者は、容赦しない。
　――何があっても、彼女を守る。
　
　天文部の守護者、鷹司凜太郎、名もなき凶漢の手によって散る。
　どこまでも己の信義を貫き通した、流星のような生涯であった……。
　
　いや、別に死んでないけど。
　
　
　
「二星何ぞ恨まん、隔年に逢うを……」
　
　その様子を見ていたととおが、そっと呟く。
　

「兼継ですか！　新理事長、小萩にまさるともおとらない漢詩の教養です」

　ここへ来て、風紀委員、本条 小萩が吠える。
　部活王決定戦、もはや行き着くところまで行き着いた。
　だれもが疲れ切って、なにもかもを出し尽くした。
　厭戦のムードも漂い出している。
　
　それでも、小萩は立ち上がり、皆を鼓舞する。
　何事も一番でなければ気の済まない彼女、周囲が全力を出さないのはいやなのだ。



「アイドルは、最後まであきらめないのです！」

　それに応えようとするあいおも、疲労の色が濃い。

　二人に鼓舞されるように、周囲の皆も身体を上げる……。


　

「それまで！」

　その時、ととおの声が響き渡る。