部活動のお時間です！～文化部編～｜リアクション

部活動のお時間です！～文化部編～

「失礼、します……」
「そんなに緊張しなくても大丈夫よー！誰も取って食ったりしないから！」
「と、取って食うだなんて、そんな……！」

七夜あおいに手を引かれて綾辻綾花は家庭科室に足を踏み入れる。
教室内にはすでに何人かの家庭科同好会のメンバーが集まり、それぞれ思い思いの活動をしていた。
ひとりは黙々とぬいぐるみを縫い上げていたり、ひとりは一口サイズのカップケーキに細かいデコレーションを施していたり。

「先輩方！今日は彼女が部活を見学したいそうです！」
「あ、あの、よろしくおねがいします！」

心の準備を済ませる前にあおいに紹介され、綾花は慌てて頭を下げる。
誰一人拒否するような発言はせず、快く受け入れられる。
綾花はその様子にほっと息をついた。

「あおいちゃんは普段はどんなことをしているんですか？」
「私？うーん、そうだなあ。ほんとはね、裁縫とかそういうの全然できない子なんだあ」
「そうなの？」
「うん、でも料理は好き！だから調理実習の日はテンションあがるよね！」

思い返しているのか、嬉しそうな笑顔のあおいに綾花もつられて笑う。

「今まではね、月に１度のペースでみんなで料理したり、それ以外は教えてもらいながらお裁縫しているの」

そう言って取り出したのは作りかけの刺繍。白い布に薄い水色の糸で紫陽花の花の模様が刺繍されていた。

「２ヵ月毎くらいにね、こうやってひとつのテーマの作品を作っているの。今月は刺繍だったから、紫陽花の刺繍をマスターしてみたくて」

すごく上手、とまで言えずとも初めての作品とは思えないくらい形になっているそれに、綾花はすごいなぁ、と感想をもらした。

「本当に苦手なの？私もお裁縫は好きなんだけど、最近やってないんです。ミシンとか、もう何ヵ月くらい触ってないんでしょう……」
「ミシン使えるの！すごいなぁ、私はまだまだ無理そうね」

照れたように笑いながらあおいは家庭科準備室の冷蔵庫を開ける。

「んーと、パンケーキくらいなら作れるかな。綾花ちゃん、よかったら一緒に作ってみない？」
「い、いいんですか？」
「いいのいいの！実践も見学のうちよ！」

手早く材料を取り出し、テーブルに並べる。
てきぱきと分量を量り、それぞれを小分けの器に移していく。

「あおいちゃん、いつもお弁当作ってて偉いですよね」
「料理は好きだからね！でも最近はちょっとさぼり気味だし」

話しながらも作業の手は止まらない。

「私、いつも放課後は図書委員で図書室に居ることが多いから、部活に入るっていうのがなかなか踏み出せなくて……。
あおいちゃんはいろいろ入ってて大変じゃないんですか？」
「んー、でも同好会は強制じゃないし、むしろここでみんなと料理したりお話してるのが癒しになってるっていうか」

フライパンを熱し油を薄く延ばす。一度濡れた布巾に乗せ、また再び火にかける。

「綾花ちゃんの作るお弁当もおいしそうよね」
「私は本当にたまにしかつくらないですけど」

綾花がお玉で掬った生地を慎重にフライパンに落とす。
生地の焼ける音と匂いが広がった。

「今度お弁当のおかず交換こしましょ！」
「いいですね！あおいちゃんが好きそうなおかず作ってみます」

片面に焼き色がついたのを確認してひっくり返す。
生地は押さえつけず、まずは両面に焼き色を。それから弱火にして蓋を閉める。

「同好会は、楽しいですか？」
「楽しいよ！みんなで何かを作って一緒に食べたり、同じものを教えあって作っていくの。１人じゃできなくても、誰かと一緒ならできる！」

蓋を開け、竹串を刺して火が通っていることを確認しお皿に乗せる。

「できましたね！」
「できたね！」

何枚か重なったお皿を見て、あおいはふと動きを止める。

「綾花ちゃん、まだ時間大丈夫？」
「あ、はい。大丈夫です」
「じゃあちょっと行ってみない？」
「……どこへ？」

あおいは可愛らしく唇に指をあてる。

「行ってからのお楽しみっ！」