Monster｜リアクション

Monster

　どうやら初夏に入ったらしい。
　春のおだやかな陽射しは、じっくりと夏の烈日へと移りつつある。
「あっつ……」
　ぼやきながら清恋は歩く。警察署ではたいていいつも、上半身はそらし気味に歩く傾向のある彼女だが、今日はほとんど反対だ。背がいささか丸い。
　まともな外出着がないことには困った。仕事以外で出るのは久々だったためだ。所有する服らしい服はほとんど冬物か春物、うんと薄い春着でも、ちょっと歩けば一人我慢大会になりそうな陽気である。迷った。しかし会う人があるわけでもどこかへ行く予定があるわけでもないこともあって、無地のロンT一枚、あとはスキニーのジーンズにサンダル履きで出かけることにした。
　せいぜい近場のコンビニに行く程度だ。これでいいだろう。
　……と、思っていたのだけれど。
　爽やかな風のせいか、何の予定もない気楽さゆえか、気のむくまま歩いているうちに、いつのまにか清恋は海岸方面に出ていた。世間的にはゴールデンウィークもあとわずか、通行人は少なくない。
　あれ――？
　記憶にある顔を見つけ、清恋は小さく息を呑んだ。
　怯えたネズミのような顔。
　視線はずっと足元だ。千円札でも落としたというのか、右へ左へせわしない。
　まちがいない、根積宏一郎（ねづみ・こういちろう）だ。
　こちらに気がついた様子はなかった。
　当然ね、と清恋は思う。根積の取り調べを担当したのは田中・ワージントン・広で、自分はマジックミラー越しに眺めただけだったから。警察署員だと思われることすらないだろう。署にいるときの服装と、休みの日の大学生みたいな現状は差がありすぎる。
　根積の服装はよれよれのスーツ上下だ。しかも冬物、季節外れもいいところである。やはりオーバーサイズで布地が余っている。極端なダイエットに成功したのだろうか。まさか拾った服でも着ているとか？　　
　根積は清恋とすれちがい。やはり地雷原でも探すみたいな目で去って行く。
　清恋は何気なく行き過ぎて、腕時計に目を落とすふりをした。そうしてくるりとふりかえり、気配を消して根積の尾行を開始する。
　せっかくの非番だってのに、何やってんだか――。
　自嘲に唇をゆがめた。
　哀しいかな、刑事の職業病か。