寝子島あやかし譚｜リアクション

寝子島あやかし譚

●猫獣人と狐のあやかし

「はて、花緑青駅で降りたはずじゃが……ここはどこなのじゃ？」
　狐耳と狐尻尾をもつ狐妖怪片夏阿呂江は、どういうわけか寝子島に来てしまっていた。
　霊界とは異なり明るく、賑やかな世界を見て目を丸くする。
「ここが霊界とは違う現世というやつか。所詮は人間共の住まうところ。つまらない世界はとっとと引きあげるに限るぞ」
　そう思いついたのはいいが、どうすれば霊界に戻れるのかわからないので、その場に呆然と立ち尽くす。

「久しぶりの寝子島ですわ」
　アイオ・キャンドライトは、寝子高の制服と帽子という姿寝子島へ。
　本来の姿は猫獣人のほしびとだが、寝子島では帽子をかぶった少女の姿になる。
　帽子は、猫耳を隠すためのアイテムなので寝子島に来る際は欠かせないアイテムだ。
　どこに行き、何をしようか考えながら歩いていると、向こうに狐のコスプレ……にしては本物っぽい自分と同じ年頃の少女が見えた。
　自分と同じほしびとであれば、正体を知られては大変なことになってしまう。
「そこのほしびとさーん！　ちょっとこちらへ来てくださいですわー！」
　気づいてもらえるよう、大きな声で狐の少女を呼ぶ。
　
　何やら騒がしいと辺りを見ると、誰かを呼んでいる帽子をかぶった少女がいた。
「そこのあなたですわー。早く来てくださーい！」
　少女の声に、阿呂江は自分を呼んでいたことに気づいた。なぜ自分を呼んだのかを問うべく、少女のもとへ。
「……さっきから儂を呼ぶのはお主か。見たところ、頭の耳からして猫又じゃな」
「アイオは猫又ではないのです。とにかく、こちらへ来てください」
　聞かれてはいけないお話がありますの、とアイオは狐少女を人気のないところに連れ出した。
　誰もいないことを確認してから、アイオは聞かれてはいけない話をし始めた。
「こっちの世界の人間さんは、基本的に異世界のことを知らないのです。ですから、その格好だとばれて大騒ぎになるので……」
「大騒ぎ、とな？」
「えーっと、耳は帽子で隠せても、そのもふもふ尻尾は無理ですわー。どうすれば……」
「どうすればも何も、儂は狐の妖怪じゃからどうにもできんわ」
　にゃっ！　とアイオは驚いた。ほしびとではなく、妖怪なのだから。
「変身できる妖怪さんだったのですね！　ちなみにアイオは猫又ではないのです。ほしびとなのです」
「ほしびと？」
　名乗るのを忘れ、いきなり連れ出したことを詫びてからアイオは自己紹介を。
「改めまして。ほしびとのアイオ・キャンドライトですわ。星幽塔という別の世界からこっちに来てるのです」
　寝子高生として寝子島に住んでいたことも話す。
「儂は片夏阿呂江。狐妖怪の村に住む村長の娘じゃ。霊界というところからここに来てしもたのじゃが……」
　元の世界に戻れず困っていると言うので、それなら、戻れるまで寝子島にいてはどうです？　とアイオが提案する。
　１年前の５月。
　初めて寝子島に来た時に地元の人に案内してもらったので、今度はアイオが寝子島を案内する番だ。
　その前に、と阿呂江にこの世界に合った姿になるようにお願いを。
「こちらの世界の者に姿を合わせるとは面倒な……まあ見ておれ」
　儂の力を見せてやろうと、阿呂江は変身したい姿を思い描いてから両手を叩く。
「これでどうじゃ？」
　変化した姿はアイオと同じ寝子島の制服だが、耳と尻尾がなくなっている。
「里で1番の変化の術じゃ！　お主と同じ寝子高とやらの制服にしてみたぞ」
「すごいですわ！」
「ふん、そう簡単に褒めるな。儂をおだてても何も出さぬぞっ♪」
　上機嫌で胸を張り、儂の力もなかなかのものよと阿呂江は満足気に笑う。

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