寝子島あやかし譚｜リアクション

寝子島あやかし譚

●頑張るご主人

　落合まゆらは学校に行く準備を済ませるとミスティフィギュアを手に取り、フィギュア購入時のケースに入れるとトートバッグの中へ。
（あたしは帰ってくるまでお留守番……え？　どうしてケースに？）
　ケースに入れられた姫之崎ありあは、トートバッグの中で困惑する。
（ケースの中に入れて……どこへ行くの？）
　どうなるのかと考えると怖くなってきた。

　移動中、ありあはものすごく不安でたまらなかった。
　学校に連れていかれるのならまだしも、その後、どうなるかわからないのだから。
　そしてそのまま、トートバッグの中で待機すること数時間。
（あたしを大事にしてくれているんだもの。誰かにあげたり、売ったりしないわよね？）
　じっとしている時間が長ければながいほど、悪い方向に物事を考えてしまう。
　そんなことないわよねと不安がったり、まゆらは今頃頑張ってるのかと、様々なことを考えてしまう。

　数時間後。今日の授業が一通り終わった。
　まゆらがトートバッグを持ってどこかに行くようだったので、これからどうなるのだろうかと、ありあは更に不安になった。
　ドアを開く音がしたので学校を出て家に帰るのかと思ったが、学校の外と音や何やら雰囲気が違う。
　何人かの生徒の声が聞こえるので、まだ学校内にいるようだ。
「今日は教室開放日だから、おもいっきりボイストレーニングができるわね」
　まゆらの言葉を聞き、学校に残っていることがわかったのでありあは少しホッとした。
　トレーニングの前に、まゆらは持ってきたトートバッグからタオルと水分補給用のペットボトル。
　フィギュアケースを取り出すと、それらを近くの机の上に置いた。
　フィギュアは転倒しないよう、慎重に安置する。
（あたしをここに置いて何をするの？）
　ようやく出された思ったら、机の上に置かれたので何事？　とちょっと焦った。
「見ててね、ミスティ」
　どうやら、ありあを観客に見立てた即興劇のような感じの稽古を行うようだ。

　近くにいた友達と演じているかのように、まゆらは自分に与えられた役を演じる。
（まゆらちゃん、何の役を演じているの？）
　何かはわからないが、表情が普段のまゆらとは異なるので一生懸命、演じていることは伝わる。
（最近の声優は声だけではなく２．５次元演劇のように顔出しの仕事もするように求められているから、自然と容姿にも気を遣うようにもなるわね）
　そう思いながら、まゆらは近く声優科学生で行われる2.5次元演劇舞台稽古の役の稽古に打ち込む。
　舞台稽古で彼女が演じるのはヒロインではなく、ヒロインをいじめる役。
　自分や好きなミスティックアリアとは異なる役柄だが、どんな役でも全力でやると決めた。
（好き嫌いは言ってられないわ。これも夢の第一歩なんだから）
　何事も夢に向かうステップなんだから、と、まゆらは一層、稽古に励む。
（よくわからないけど、頑張って、まゆらちゃん）

　稽古に集中していたが、様子を見に来た講師に解放時間が終わったと告げるので帰り支度を。
　水分補給をしている時、不意に、どこからか見守るような視線を感じた。
　視線を感じた先は、ミスティフィギュアが置かれている机。
（まさか……ミスティが？　まさかね）
　そう思ったが、ミスティが応援してくれたら嬉しい。稽古を頑張る気力がわきそうだ。
　ミスティフィギュアをそっとトートバッグに入れると、まゆらは更衣室に行き着替えて帰り支度を始めた。

（あたしはずっと、まゆらちゃんを見ているからね。夢、実現するといいわね）
　声は届かなくても気持ちは届くはず。そう願うありあだった。

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