寝子島あやかし譚｜リアクション

寝子島あやかし譚

●真夜中のあやかしバトル

「やぁ、ご同胞。僕達の世界にいるつもりで飲んでいては、些かならず此方の人を驚かせてしまわないかい？」
　鬼が睨みながら近づくが、鏨紫は動じない。
「やはー！　おにーさんたち、酒盛りなら俺も入れてよ～」
　漫歩は一緒に楽しもうと宥めたりしつつ、危ないモノは手元から離そうねーと金棒を手放すように促すが言うこと聞かず。
「きかないようだね。どうする？」
「酔うておるから、は通さない。早い話、こちらの神様の前でおイタをして欲しくないんだ。許して貰えなかったらどうするつもりなんだい？」
　自分達の邪魔するなと怒った鬼達は、金棒で鬱陶しい2人に襲い掛かる。
「やれやれ、話が通じそうにないか。売られた喧嘩は買わないとね」
「俺も混ぜてー。おにーさんたち、暴れたいのなら修行にでも付き合ってよ」
　あやかし姿という意味でも、靴の履きこなしという意味でも自分の身体をもっと乗りこなせるようになりたい。
　俺がバトるのならやっぱ主体は蹴りっしょ、ということで歩は蹴り技で鬼の相手を。
「まずは避けながら攻撃の癖を観察するか」
「そうだね。どんな動きをするか確認したいし」
　2人の意見が合ったところで徐々に間合いを詰め、いつでも攻撃できるような態勢に。

　歩は蹴りが主な攻撃なので腕は基本的にバランス取りと、身体を支えるために地面に付けたり。
　隙をついて低い体勢から蹴り上げたり、大振りに振り下ろして地面にめり込んだ金棒を踏み押さえてハイキックで顎を狙うが動きが鈍い。
　本来の姿であるコンバットブーツは、ファッション用ではあるが重いのでそれが理由かもしれない。
　千鳥足の鬼は蹴りを喰らったが、それ以外の鬼はヒョイと躱した。
「やだなぁおにーさんたち。もっと修行に付き合ってよ～」
　特殊能力のおかげで歩は著しく疲れづらい。コンバットスーツ姿の歩を履いた人も、脚を用いた動作で著しく疲れづらくなる。
　そのため、長期戦ともなれば歩のほうが有利だ。
　紫はずっしりと重めの足取りで距離を詰めると手近な鬼の顔を足で掴み、こめかみを絞め上げながら持ち上げる。
「あまり境内を荒らしたくないからね。加減はしておくよ」
　参道を傷つけないよう外れた土の方へ叩き付けるように踏み倒し、捻る。
　叩きつけられ気を失った鬼はそのまま。
　残る鬼は体躯の差で打ち据え、腕や足を掴んでは投げ、力で押し潰して黙らせる。
「やるねえ、おねーさん。じゃあ、俺も」
　逃がさないよ！　と歩は背を向けて逃げる鬼の背中におもいっきり飛び蹴りを。
　見事に決まった蹴りで、鬼は境内に倒れこんだ。
「決まったね！」

　酒盛りをしていた鬼達は、飄々とした青年と僕っ子お姉さんの鬼に大人しくさせられた。
「皆、僕が預かるよ。向こうでお話があるからね」
　同胞だから手荒なことはしたくなかったが、先に手を出したのは鬼達のほうだ。
「おにーさん達のことは君にお任せするよ。境内に穴ぼこができちゃったねぇ。朝までにちゃんとならして直そうね」
　歩の一言に、紫はやりすぎたかなと穴の開いた境内を見る。
「直すの、僕も手伝うよ」
　鬼達が逃げないように拘束してから、歩と一緒に境内を直したり、周囲に散らかっているゴミを片付けた。
　後片付けが終わったら、寝子島神社でお参りを。
「歩さん、蹴り技すごかったね。手合わせしてみたいと思ったほどだったよ」
「え？　そう？　おねーさんの投げ技もなかなかのものだったよ」
　互いの実力を認め合い、2人は顔を見合わせて微笑む。
　夜明けが近くなってきたので、明るくならないうちに靴の付喪神と鬼は寝子島神社を後にした。