寝子島あやかし譚｜リアクション

寝子島あやかし譚

●鍵の付喪神のはじめて

　金の羊のようなショートウエーブの髪。
　パーカーワンピース姿の四ツ葉乃キィは、小さな四つ葉を模った鍵の付喪神だ。
　持ち主がいっぱい呼びかけ、いろんなところに連れ出すので１年前、目覚めるように付喪神になった。
　ある日の夜。
　いつもは鍵の持ち主の側や近所を探検するだったけど、遠出をしてみてみようと思い立った。
　幼少時から知る持ち主は夜更かししていたからなのか、よく眠っている。
（暫く大丈夫よね。行ってきます）
　眠っている持ち主の頭をそっと撫で、起こさないよう、静かに桜花寮を抜け出す。

　最近、散歩中にあやかしがどこかに向かっていくことがキィは気になっていた。
　その方向が気になるので、何があるのか確かめたい。
　今夜も、どこかに向かうあやかしに会えるかもと思っていたら、フラフラとどこかに向かうあやかしを発見。
　尾行すると、着いた先は寝子島シーサイドタウン駅だった。
　駅前に来たキィは、黄金色のタレ目を輝かせキョロキョロする。
（昼と全然ちがう。すごい。キラキラ、ふわふわあやかし、いっぱいいるんだ）
　付喪神や妖怪、幽霊といった様々なあやかし達を見て、仲間がこんなに……と嬉しくなった。
　駅前をうろついていると、いつの間にか花緑青駅に来ていた。
　最初はいろんなものが見たいと動き回っていたが、次第に動きが鈍くなった。
「疲れた……っていうの、これ」
　駅前でうずくまり、どうやったら元気になれるのよ……と弱気に。
（人みたいに寝たり食べたり、できるの……？　主のところまでは遠いし、このままいたら良くなるかな……）

　どうしよう……と泣きそうになった時、どこかから音楽が聞こえる。
「何だろう……？」
　立ち上がってその場所へ歩き出すと、辿り着いた先は様々な施設がある場所だった。
　目についたカフェに入ってもいいのかな……と躊躇したが、思い切って入ることに。
　ドアを開けると古びたカウベルの音にビックリ。
　いらっしゃいま♪　と猫耳、猫尻尾の妖怪ウェイトレスが手招きを。
　お出迎えや店内の賑わいにビックリしたが、気を取り直す。
「音楽……聞こえて！　……休んでいきたいと思ってたところなの。キィ、ここ、いても大丈夫？」
　入ったのはいいが、お金を持っていないなら何も食べれないし、楽しんではダメと人間社会を見て学んでいるので場を弁えている。
　お金の代わりになるものはあるかな……とパーカーのポケットを探ると、メダルゲームで使われているような銀色のコインが入っていた。
　これが使えるかウェイトレスに尋ねると硬貨があればオッケー♪　と答えてくれた。
　霊界の貨幣は、いろんなものがごった煮らしいので寝子島で流通しているような紙幣や貨幣。
　外国のものや古いものも使えるようだ。死んだお金の霊で支払うあやかしもいるとか、いないとか。
「よかった……じゃ、じゃあ、これで何か食べるものか飲むものちょうだい……」

　席に案内され、しばらく待つとウェイトレスがホットミルクを運んできた。
「あったかくておいしい……」
　初めて口にするホットミルクは温かく、ほっとする味だったので自然と笑みが浮かぶ。
　人の世界は音楽が溢れててステキと思っていたが、霊界には霊界の音楽が溢れていた。
（主、どうしてるかな。オルゴール聞きたいなあ。また鳴らしてくれたらいいのに……キィがお願いすればいいのかな）
　今頃ぐっすり眠っている持ち主にお願いすれば鳴らしてくれるかな？　と思ったが、付喪神として人にはバレないようにしなきゃと考え直す。

　初めての遠出と飲食は、キィにとって貴重な体験となった。

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