寝子島あやかし譚｜リアクション

寝子島あやかし譚

●カーブミラーに映る幽霊の苦労

　寝子島にあるトンネルの先のカーブのカーブミラーに、時代がかったセーラー服と黒ストッキング姿の少女が映るという怪談話がある。
　その少女は身体はうっすらと透けており、足は膝下から下がぼやけて見えない。
　怪談話に出てくる少女の名は鶴見五十鈴。
　50年前、保険金目的のために両親に事故に見せかけて殺された幽霊だ。

　五十鈴が困っていることは、最近、自分の姿が見える生存者が増えてきたこと。
　今のところ、目撃されているのは怪談話の場所のみだが。
「私だって、いたくているんじゃないわ。50年前のあの日……保険金目的の両親に事故に見せかけて殺されたんだから」
　50年前のその時から、五十鈴はカーブ付近から何故か動けない。ここが事故現場だからだろうか。
　事故死してからしばらくは殺害した両親の枕元に行けたが、両親が心を病んで壊れてからは、それができなくなった。
　母方の叔母と生前の親友だけが五十鈴を憐み、月命日になると事故現場に花とお菓子を供えてくれた。
　彼女にとって、これだけが救いだった。
（この豆大福……おいしいな）
　味覚は生前通りにあるのだが、失敗して体を通り抜けてしまうこともあるのでじっくり味わえない。

　そんなことを考えていると、カーブ付近に数名の生存者がやってきた。心霊スポット探索と称し、この辺を彷徨っている若者達だ。
「……また来たのね。ホント迷惑」
　ここはトラックが市街地に抜ける抜け道だが周りは暗い。それなのに結構飛ばして来る車が多いものだから事故が起きやすい。
「危ない目に遭っても知らないんだから」
　呆れた表情で、心霊スポット探索を楽しむ若者達の様子を窺う。
　心配する五十鈴をよそに、これから噂のセーラー服少女を撮影しまーす！　と自撮りしながらリーダーらしき男がピースサインをしている。
　早く会いてー！　と五十鈴の出現を待っている男や、トンネルにいるんじゃないの？　と歩き出す女も。
　その中に1人だけ、怖がっている生前の五十鈴くらいの年齢の少年がいた。
（あの子……嫌がってたのを強引に連れて来られたっぽいのよね。事故らなければいいんだけど）
　様子を窺い続けていると、少年が道路を横切ろうとした時に１台のトラックが急スピードでカーブを曲がり始めた。
（……って、言わんこっちゃない！　このコースだと……即死かな）
　急カーブなうえ見通しが悪いのでトラック、少年のどちらかが確実に避けるのは無理だ。
「……ええいっ！」
　無意識のうちに、五十鈴はトラックに轢かれそうな少年の腕を引っ張っていた。
（トラックもうまく躱したみたい……運転手の顔色、真っ青だったけど）
　少年がすごい勢いで目に見えない何かに引き摺られたたので、運転手はさぞ驚いただろう。
　やば、と思った時は既に遅し。尻餅をついて動けない少年と若者達に五十鈴の姿を見られてしまった。

「「「出たー！！」」」

　悲鳴の後、五十鈴を撮影するとイキッていたリーダーらしき男が真っ先に逃げた。
　これ以上、姿を見られたらまずいと五十鈴はその場から消えることにした。

　翌日。カーブ付近のお供え物が増えていることに気が付いた。
　誰が置いたかわからない小さな花束の側に、クッキーと瓶入りのお茶があった。
「クッキーに瓶入りのお茶付きだ！　昨夜の連中が反省して置いてくれたのかも」
　喜んだ後、五十鈴は今後、ああいった人達が来ないようにと願うのだった。