寝子島あやかし譚｜リアクション

寝子島あやかし譚

●深夜を歩く鬼と靴

「こっちの世界に来たのなら、まずは寝子島神社に行ってみようかな」
　鬼のあやかしの鏨紫は、そう思い立ち寝子島神社へ。
　深夜なので辺りは暗く、周辺の店は既に閉まっている。道行く人の姿もない。
　夜には人の営みがないのだったかな、と誰もいない理由を納得しつつ、お世話係も連れてないし、どうしたものかと考える。
「まぁ、とりあえず足は運ぼうじゃないか」
　寝子島神社に行けば、同胞、あるいは似通ったモノに会えるかもしれない。
　
「夜って人気が少なくて、付喪神の俺も寝子島散歩できるから好きよ～」
　コンバットブーツを履いた20歳ほどの飄々とした軽い雰囲気な男性が、深夜の寝子島を歩く。
　男性の正体は靴の付喪神、漫歩。いつかこれを履いていろんなところに行くんだと夢見ていた病床の青年が所有していた靴だ。
　青年と出かけることは叶わなかったが、時は過ぎ、自分で歩く力を手に入れた。
　彼の分もたくさん歩いて、走って、いろんなものを見ていきたい。それが歩の願いだ。
　しばらくすると色黒で背が高く、頭部にツノを生やした女性を見かけた。
（ツノがあるってことは、あの人、あやかしかな？）
　そんなことを思っていると女性が近づいてきた。
　気まずい雰囲気になったが、夜の散歩をしているのかと問われた。
「散歩？　ま、まあ、そんなところかな？　君も？」
「寝子島神社に行くところだよ。よかったら……えっと……」
　どう呼べばいいのか迷っているようなので「俺は漫歩だよ。よろしくね！」と自己紹介。
「僕は鏨紫。御覧の通り鬼だ。歩さん、僕が怖くないのかい？」
「鬼？　ということは……君、妖怪？　俺は靴の付喪神なんだ」
　普段はこれだけどね、と履いているコンバットスーツを指さす。
「……ということは、僕と同じあやかしなんだ。こんな早くに、あやかしに会えて嬉しいよ」
「俺もあやかしに会えて嬉しいなー。寝子島神社に行くって言ってたよね？　お参りするの？」
「鬼でもお参りをするのか、って？　それはするさ。その土地のことを知りたければ神社が一番……うん？　人の世では今はもう、そうでもないのかい？」
「神様を信じていないって人もいるみたいだから、そうでもなさそうだよ」
　付喪神の俺がこういうのもなんだけど、と歩は苦笑する。
「なるほどそれは、それは……」
「それよりさ、俺も一緒に神社に行ってもいい？」
　断られるかもと思ったが、紫は「いいよ、一緒に行こうか」とOKしてくれた。
「やったね！」
　喜ぶ歩を見て、寝子島神社までの散歩は楽しくなりそうだねと紫はフッと笑う。

　自分はどのような存在なのか。
　どのような特殊能力があるのかを話しながら寝子島神社に向かううちに、神社の前に辿り着いた。
「ここが寝子島神社か。けっこう立派なお社だな」
「そうだね。あ、境内に誰かいるみたいだよ。なんか楽しそうにしてるみたいだねー」
　人気のない神社に誰が？　と、境内にいる人物に近寄る。
　自分と同じ鬼だろうかと期待する紫と「楽しそうだねー」とワクワクする歩が境内に足を踏み入れと……。
　そこで見たものは、霊界からやって来たと思われる数人の鬼達の酒盛りだった。
　酒の臭いが境内に漂っているので、２人は酔ってしまいそうな感覚になった。
　酒盛りをしているだけならまだしも、酔った勢いで金棒をぶん回して今にも暴れ出しそうな鬼もいる。
「これはどうにかせねば」
　同胞がこれとは……と、紫はため息をつく。
「酒盛りはいいけどこれは……」
　楽しんでいるのはいいけど悪乗りしすぎ、と歩は呆れた。
　邪魔をされそうだと察知したのか、鬼達は紫と歩に近寄って来た。