寝子島あやかし譚｜リアクション

寝子島あやかし譚

●ゲーミングPCの付喪神の過ごし方

　アメリア・ガーネットは、接続したケーブルでモニター等に絵を描くことができる背が高いゲーミングPCの付喪神だ。
「人間観察を兼ねて、ゆったりとお絵描きするのもいいかも」
　霊界は幽霊、妖怪、付喪神といったあやかしが暮らす世界だが、ひと・もれいび・ほしびとといった迷い込む者もいる。
　霊界線最大の駅である花緑青駅に行けば、人間観察ができるかも。
　そう思いながら蜘蛛のような足を生やし、小さいモニターを持って花緑青駅へ。
　普段は適当なモニターを借りているが、持ち運ぶことを考えると小さいモニターが良い。

　シーサイドタウンに位置する花緑青駅は、現実世界の寝子島を巡る２つの路線の乗り換え駅だ。
　カフェや映画館など、あやかし向けの施設も充実し、周辺には危険なあやかしも少ないようなので、のびのび過ごすことができる。
「とりあえず、人通りが多そうな場所に行ってみようかな」
　現実世界のシーサイドタウン駅が人々で賑わっているように、花緑青駅も多くの種族で賑わっている。
　どこでお絵描きしようか迷ったが、駅前が人通りが多いのでそこで描くことに。
（もしかしたら、私の絵を見てもらえるかもしれないわね）
　そんなことを考えながら、しっぽのように動く外せないケーブルを小さいモニターに接続。
　ケーブルを接続した後は、念じるだけで絵を描くことができる。
　
　体が透き通っている幽霊やお化け屋敷にいるような妖怪。アメリアのような何かしらの物体の付喪神。
　あやかしにひと・もれいび・ほしびとが混ざっていたりと、さまざまな種族が花緑青駅周辺を歩いている。
　その様子を楽しみながら、アメリアはあくまでものんびりと、気ままに描く。
（あまり欲張っても、いいことはないしね）
　たくさんの人を描こうとすれば、モニターがショートするかも。
　時折そんなことを考えながら、駅周辺の絵を仕上げていく。

「え、じょうずだね～♪」

　背後から声がしたので振り向くと、足の無いゆらゆらボディでふわりと浮かぶ駅員の格好をした少女の幽霊がいた。
「あなた、誰？」
「はなろくしょうえきのえきちょう、もちもちきなこだよ～」
　よろしくね～♪　と餅々きなこはアメリアの周りをゆらゆらと動き回る。
　しばらくは楽しそうにアメリアが絵を描く様子を見ていたが、駅長としての仕事があるからと離れていった。
「面白い駅長さんだったわね」

　ゆったりと流れていく時間。行き交う様々な者の絵は、段々と出来上がっていく。
「よし、出来た」
　仕上がった絵は、きなことあやかし達で賑わう花緑青駅周辺。
　楽しい雰囲気で絵を描いたことは、まさに良い時間の過ごし方だった。

　また絵を描きに来ようと、しっぽのようなケーブルを揺らしながらアメリアは花緑青駅前を去り別の場所へ。
　その途中、パーカーワンピース姿の女の子にぶつかってしまった。
「ごめんなさい、大丈夫？」
「う、うん……だ、大丈夫……。付喪神さん……なの……？」
　四ツ葉乃キィは、自分以外の付喪神と直接話すのは初めてなのでアワアワしている。
「私はゲーミングPCの付喪神よ。あなたは？」
「キィは……鍵の付喪神なの……」
　鍵の持ち主にバレないよう一緒にいる。持ち主の側で探検しているということも話してくれた。
　それを聞き、アメリアは自分も探検してみたくなった。そのついでに、いろんな絵を描こうとも思った。

　少し話をしてから、アメリアとキィはそれぞれの場所へと向かい歩き出した。

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