猫鳴館、自治会長選任戦1371～ボロボロボをぶっ壊せ！｜リアクション

猫鳴館、自治会長選任戦1371～ボロボロボをぶっ壊せ！

●動き出す候補者たち：恵御納チーム

「西から来る朱い機体、ボロボロボ１号……それが僕たちの担当、だね」
　双眼鏡を覗いていた恵御納夏夜は、旧館の二階の窓からしばし進攻してくる巨体を観察したのち、この選任戦で協力を申し出てくれた仲間たちが集う玄関前へ向かった。
「ロボは攻撃してくるわけではないのよね？」
　神野美野梨が念を押す。
「今のところは。ただぎこちなく歩いてるって感じだったよ」
　もっと猫鳴館に近づいて、倒れ込んででも来たらコトだが、その前に止めれば被害は最小限に食い止められるはずだ。攻撃してくる様子ではないことに美野梨は胸を撫でおろし、眼鏡の蔦を押し上げた。
「なら安心だわ。先手必勝で片付けましょう」
「今回の選任戦は随分と荒っぽいね。僕好みで大変結構だ」
　簾から巨大なパイプレンチを借りた刃物マニアのサキリ・デイジーカッターは、口の端を僅かに上げる。
　茶道部に所属し茶を嗜むなど穏やかな顔も持つサキリだが戦いとなると血が騒ぐ。そんな彼が夏夜を応援する理由は、一番冷静で問題対処能力が高そうだと判断したためであった。
「それと彼女の姉には色々な場所で世話になった。恩返しの一つになれればいいと思ってね」
「ありがとう」
「礼はあとで聞くよ。今は速さが肝要だ。なにか作戦はあるかい？」
　サキリが夏夜と美野梨の顔を交互に見ると、まず美野梨が策を披露する。
「ガラクタにはガラクタを、というわけでペットボトルロケットをミサイルにして攻撃したいわ。先端はコーンタイプ、材質は金属板がいいわね。１０発くらい準備しておくわ」
「それは作成にどのくらい時間がかかりそう？」
「出来るだけ急ぐけれど、３０分は時間が欲しいわ」
「了解。恵御納はどうする？」
「準備は手短にしたほうがいいよね。僕は、竹林の竹を切って竹槍を作るのと、石や枝等使える物で１号予測進行ルート上に罠を用意するくらいかな」
「罠か。それは僕も考えていた。それと僕がこの中では一番速く動けるね。ろっこんなしでも、だ。皆と力を合わせ猫鳴館を守るよ」
　サキリは巨大なパイプレンチを軽々と振ってみせる。
　夏夜はこの短い作戦会議を次のようにまとめた。
「サキリ君。先行部隊を指揮して罠の設置と時間稼ぎをお願いできるかな。神野さんはペットボトルロケット作成の指揮を。僕は準備ができ次第サキリ君に合流するよ」
　夏夜を応援するために集まったのは、美野梨とサキリだけではない。ふたりをサブリーダーに指名して、ほかの猫鳴館生たちの力も借りれば、巨大ロボのひとつやふたつ、止められないわけがない。
　夏夜は覚悟を決める。
「夏夜さん」
　美野梨がダンボール箱を夏夜に差し出した。
「貴女はクールに見えるけど、ちょっと一人で抱え込もうとするところがあるわね。無理をしてはだめよ。いまは貴女が大将なのだから、せめて防具くらいつけて」
　ダンボール箱に入っていたのは野球部から借りてきた古いキャッチャーマスク、ヘルメット、プロテクターといった防具の数々だ。
「……わかったよ。ありがとう」
　美野梨の手を借りそれらの防具を身につけると、夏夜は長さ１ｍに満たない細めのパイプレンチを簾から借りて装備完了だ。
「よし……！　先達には悪いがロボを壊しに行ってくる！」
　

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