寝子高七不思議シリーズ：北校舎の魔鏡｜リアクション

寝子高七不思議シリーズ：北校舎の魔鏡

【ひとひとり、ねこいっぴき】

「……いらづみ読、よ」
　図書室、と書いたプレートもくるりと左右が反転していて、綾辻綾花は思わず首を傾けました。
『ろだいならわ変もてしとこなんそ』
「てっくなせか動くまうがだらか、もで」
　鏡の世界、夜の寝子島高校。いかにもブキミ、いかにもおそろしげで、おまけに右を見ようとしたら左を見てしまいます。
　ややこしいしおっかないし、綾花ひとりだったなら、くじけてしまったかもしれません。
『ろだいならわ変と象現魂神のもつい。は前おなだリビビ、くたっま』
「？のいなく怖はオテ。よい怖りぱっやは校学の夜、てっだ」
『よかんもい怖。んふ』
　けれど肩の上には、いつものぶっきらぼう。愛すべき仏頂面のテオがいてくれました。彼の優しい憎まれ口があれば、恐怖もいつの間にやら、どこかへ行ってしまうのです。
「ね。てっ思とだんゃちラミはとこの私、らほ　？ねでいなれ離、オテ」
『！……はのういうそ、てっろめや、や』

　かわいく猫手をつくって見せたら、テオはすねたようにぷいと目をそらしてしまいました。微笑ましいったらありません。
　無事に元の世界へ戻れたら、彼にはお腹いっぱいになるまで、猫缶をごちそうしてあげるつもりです。
『えねかしす探をかになるなと鍵、はにる出らかここ。だくかもと』
「？のいなれら出で力のオテ」
「……かういとい悪が子調、うこかういとんなは今、がうろだるきで。ろだるてっま決にるきで。前お、ゃりそ」
　どうやら彼も例外なくいろんなことが左右反転しているようで、ひっさつ猫パンチも今回は空ぶりといったところ。
　要するに、綾花が頑張るしかないというわけなのです。
「？なか……いない、は生先珪」
　身体の動かし方に苦労しつつ図書室の扉を開いてみると、人の気配はありません。思いを寄せる早川珪先生の姿も見えなくてがっかりしたような、ほっとしたような……こんな不思議な世界ですし、彼がいたとして本人だとは限りませんから。
『ぞたい動かになでうこ向、いお　？ん』
「？にな　？っええ」
　テオの肉球が示したのは、図書室の奥です。
　慣れない身体の動きに時おり書棚へごつん、ごちんとぶつかりながらも歩を進め、そろりと覗き込んでみますと……。
「？腕の人、ひ　？っえひ……」
『？か、腕右』
　床へ無造作に転がっている人体パーツ。まぎれもない人間の右腕でした。しかもずるずる、動いています！　綾花は思わずテオをむぎゅっと抱き締めました。
「だれそくらそお、がのてっ鍵たっ言きっさ。けとっ拾をついそ、いお、お　！……し苦っおう」
「？のう拾、ひ　？が腕のこ、っええ」
　よくよく見れば確かに、普通の腕では無さそうな……断面はもやがかかったように見えませんし、そもそもこんな状態でも血色よく、元気そうに動いているのですから。
『なんぶた。ろだじ感なんそ、かとるれら出ゃりめ集部全をツーパ』
「……すでいな出が気勇るわさ。っうう、もで」
　青ざめた綾花が腕を拾い上げるまで、しばし葛藤とためらいとの戦いがありましたけれど。
　重要アイテム？　をゲット！　おっかなびっくり、綾花の探索は始まったばかり。