怪物｜リアクション

怪物

「……ホントに撮るんだ……この格好で？」
　やってみようと言い出したのは理緒だったのに、いざとなると戸惑っているのも理緒だった。
「え……？　『ウェディングドレス体験』ってことだから当然じゃない？」
　ごく当たり前にこの状況を受け入れているのは、付き合わされた紗月のほうだ。
　ともに花嫁衣装、ともにブーケを手に、理緒と紗月はチャペルの中央あたりに立つ。
「理緒ちゃんは私なんかよりずっと撮られ慣れてるのに？」
「ウェディングドレスの撮影は初めてだもん……」
　ぼそぼそと言葉を交わしていると、
「いやあ、おふたりともよくお似合いです」
　カメラマンから声がかかった。カメラマンは忙しく動き回り、ライトの位置をあれこれ工夫している最中だ。メイキャッパーの女性もいまはレフ板を手にしている。撮影スタッフの人手がたりていないらしい。
　セッティングが終わって、駆け足でカメラマンは固定カメラの前にもどった。
「じゃあいいですか。撮りますよー。はい笑顔で……」

　時間をさかのぼって経緯を説明しよう。
　怪談話（？）のやりとりののち、ふたりは気分転換のために外に出たのだった。
　しばらく街中を歩いていると、『ウェディングドレス体験』なる広告を理緒が見つけたのである。
　結婚式場の企画だった。きたるジューンブライドに向けた宣伝の一環で、メイクと試着、さらには撮影の体験企画をしているらしい。参加は無料、そのかわりサンプルとして、写真を式場の広告に使わせてもらいたいという。
「いいじゃん！　やってみようよ」
　見るなり理緒は乗り気で、
「恥ずかしいよ……」
　やはり紗月は尻込みした。
「なに言ってんの現役のグラビアモデルが」
「現役って……もう、まだ一回ためしただけだってば……」
「二回目ももうすぐじゃない。どうせヒマだしやろうやろう！」
「理緒ちゃんてば強引なんだから……」
　とはいえ紗月も興味がないではなかった。連絡を入れてみたら、先日発生した児童自立支援施設襲撃事件の影響か予約のキャンセルがあいついだため、タイミングよく空きがあるというではないか。来てくれれば今すぐ開始できるという。
　そして、こうなった。

　式場のカメラマンはまさか、本物のグラドルを相手にしていると気づいていないのだろう。シャッターを押しながらいちいち、
「いやー、いい表情だ」
「目線くださーい！　はいそのまま」
「まるでモデルさんみたいですね！」
　などと声をあげている。くすぐったくて紗月は笑ってしまい、理緒もどんどん活き活きした表情になっていく。
　未来の話を先取りすると、紗月と理緒の写真が掲載された式場のパンフレットは、『あのふたりのレア写真！』としてフリマサイトにて高値で取引されることになる。
「じゃああと一枚だけ、とっておきの写真にしましょう！」
　はいと応じて紗月は理緒の腕に自分の腕をまわす。