怪物｜リアクション

怪物

　あら？　と『クラン＝G』店長代理、千絵は眼鏡の位置を直した。
「七枷さん、白さん、芋煮さんも、三人連れだってのご来店とはめずらしい」

「はは、まあ僕はいまから勤務やし」
「なに？　同伴出勤ってやつ？」
　ふふふと笑ってから真白は言葉を継いだ。
「まあ、たまたまそこで一緒になっただけだけど」
　たまたまという言葉はやや強調気味にしておいた。紅美の心情をおもんばかったのだ。
「あー……まあ、そういうこと」
　多少言いにくそうにしながら紅美は千絵に目をむけた。
「店長代理……ラノベの新作、なんかお薦めある？」
　紅美はポソっと口にしただけだった。しかしその小声を、千絵は聞き逃さなかったのである。
「ありますとも！」
　書籍の扱いはそれほど多くないものの、千絵のセンスとチョイスでファンタジーやその周辺の本を店は仕入れているのである。
　商売となると千絵は熱心だ。目を十字型のきらめきと化すなりぱっと駆けだしていってたちまち、どさどさと音がたつくらい何冊もカウンターに積む。
「はい、まずはこちら！」
　さっそく一冊とって熱弁をふるう。
「TRPG原作のオリジナル小説ですけども、とってもよくできててゲーム知らなくても楽しめるんです！　とくに主人公の台詞がかっこいいんですよ～！　何ページかに一回は心えぐられる名言をくりだすんですから！　まるで名台詞製造機です、キャーとか言いたくなります！　コミカライズ版も絶賛発売中ですよ」
　それとこちら！　と息もつかせずまた別の本を手にする。
「和風ファンタジーとしては珠玉の出来です。元は純文学の作家さんだけに、起伏に富んだストーリーと心ふるえるような情景描写が魅力的です。来年映画化予定ということもあるのでいまのうちからおさえておくと先取り気分ですよ！　それから……」
「ちょ、ちょっとプレゼン攻勢熱心すぎんだけど！」
「これが私の仕事ですから！　ねえ白さん！」
「うん、そうかも。この状態になった千絵ちゃんは熱いよ」
　あと長いよ……というのは紅美には秘密にしておこうと真白は思った。
「じゃあ僕バックヤードで着替えて……それから、店長代理の好みを何冊か取ってくるんで」
　陣も『クラン＝G』店員として、営業努力には協力することにしたのである。

　四人のやりとりを、やや離れた場所から眺めている姿があった。
「あれは紅さん……ですか」
　エレノア・エインズワースはつぶやいた。