怪物｜リアクション

怪物

　空が高い。青い。
　そして陽射しが、けっこうきつい。
　これが――と言ったきり伊賀解理は、感極まったように青空を見つめた。
「どうしたの伊賀さん？」
「いえ、胸がいっぱいになってしまいましてね。これが噂の木天蓼大学なのだなあ、と」
「正確には、いくつかあるキャンパスのひとつだけどね」
　北風貴子は右手をのばした。
「カフェテリアはあそこね」
「カフェテリア！　いやあ、シャレオツですなトレンデーですな」
「古語をわざわざ言わなくていいの。ていうか学食だから、ただの」
　へへへと解理は歯を見せて笑った。
「でもでもでもっ、貴子さんに案内されるなんてこの僕にとっちゃ光栄のきわみということで、少々はしゃいでしまってもいたしかたないところでしょ？」
　でしょでしょ、とくりかえす解理である。

　ゴールデン街ならぬゴールデンウィークに突入した記念（？）として、『久しぶりにお茶でもしませんか？』と解理は貴子にメッセージを送ったのである。スコンとプロテニスプレーヤーなみにすばやく貴子からレスが返ってきたのは望外の喜びであったが、『あ、でもその日学校に用事があるから』という前振りから『よかったら大学で会わない？』というまさかのお誘いへとつづいたのはまさかの展開であった。
　かくして本日解理はねこでんに飛び乗り、本土にある木天蓼大学メインキャンパスへと歩をすすめたのだった。高い背丈で有名な校門をくぐれば、そこはたちまち学問の殿堂だ。
「いいんですかねぇ、学外の人間が入っちゃって……」
　巨大な校舎たちならぶ光景、いかにも大学生といった風体の男女が往来する姿に威圧されつつ、解理はむやみにきょろきょろと周囲をうかがう。
「別に。敷地のなかにはコンビニもショップもあるし、一般の人もたくさん訪れるよ」
　入学してまだ一年と少々だというのに、もう実家の庭みたいにすいすいと歩む貴子の姿がまばゆかった。
「もう連休に入ったというのににぎわってますよねえ」
「連休っていっても土曜だから学校あるし」
「土曜開校！　いつからそうなんですか」
「うーん……たぶんずっと前から。まあ、私も午前中にひとコマあっただけだけど」
「授業を『コマ』単位で数えるあたりが大学生っぽいですなあ」
「感心するほどのことでもないと思うけど」
　とは言うものの貴子も、解理がいちいち驚いたり感心したりしている様子を見るのは楽しいようだった。
　カフェテリアはセルフサービスだ。ランチセットを注文してトレーごとテーブルを探す。色の濃いキーマカレーにとろり半熟の目玉焼き、淡い色合いのサラダと小さなプリンのセットだ。思わず値札を二度見するくらい安価だった。
　長テーブルの端に向かい合わせで腰かける。
「私に聞かせたい話があるってことだったけど」
「そうなんですよ！」
　いささか解理は前のめりになっている。
「最近のビッグニュースを話したくて」
「ビッグニュース？」
　貴子も興味をいだいた様子だ。