怪物｜リアクション

怪物

　まさかこんな、と田中・ワージントン・広は思うのである。まるで刑事ドラマじゃないか――！
「道路封鎖だ！　港方面！　P920ブロックを中心に四ヶ所！」
　警察署の管制室、無線機に向かってワージントンは怒鳴った。オペレーターたちがパトカーに指示を出している。近場の車両が急行を開始するのもモニターに映っている。
　脇坂香住はまだ見つからない。
　だが、寝子島じゅうに設置された監視カメラに映り込んだのである。
　ネズミマスクの怪人が。ひょっこりと姿を見せたのだ。
　閑静な区域だ。目印らしいものは小さな公園くらいである。住民退避も必要になるかもしれない。
　なぜこれまで網にかからなかったのか。そして今度はなにをする気なのか。
「現場行きます！」
　清恋は上着をひっかけて管制室から飛び出す。元スプリンターの脚力は健在、同時に走り出した警官たちをぐんぐん引き離した。
　急げばすぐ確保できるはずだ。
　ことは一刻を争う。
　なんとしてもネズミ人間をつかまえて、少女のゆくえを白状させなくちゃ！
　地下の駐車場に一番乗りし、清恋は覆面パトカーに飛びこんだ。

（世界は、不完全ながら枝分かれした）
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　ワージントンは管制室で、じっとモニターを眺めている自分に気がついた。
「異常なし、か……」
　少し手が空いたので、ワージントンは寝子島じゅうの監視カメラ映像をチェックしに来たのだった。数え切れないほどのモニターをながめ、リアルタイム画像を確認する。
　清恋も管制室にいた。やはり気になって立ち寄ったらしい。
「なかなか尻尾をつかませませんね」
　ネズミだけに、と清恋は苦笑いした。ひょっとしたらこの瞬間にでも、ターゲットが姿を見せるかもと期待したのだが。
「そうそう都合よくはいかないさ」
　刑事ドラマじゃないからね、とワージントンは肩をすくめる。こういう仕草をすればますます、ロマンチックコメディ俳優っぽくなる彼である。