【球技大会】思い出に残る初夏の大会へ｜リアクション

【球技大会】思い出に残る初夏の大会へ

　仙藤蒼は体育館でバスケットボールの試合を熱心に見ていた。選手の激しい動きを目で追う。ボールをコントロールしている人物を見つけ出し、自分なりに理解を深めていく。
　――バスケは中学時代に何度かしたことはあったけど、ここまで本格的な形式ではなかったわ。私には経験が足りない。だから、見て補うしかないよね。
　一人の選手がドリブルで飛び出した。タイミングが早く、他の者が出遅れた。
「どうする？」
　選手はスリーポイントラインを超えた。ディフェンスを躱そうとしてバランスを崩す。その無理な体制でシュートに持っていく。
　ホイッスルが鳴った。試合は止まり、二回のフリースローが与えられた。
　――強引なシュートに驚いたディフェンスが誤って相手の手を叩いて反則を取られたんだけど、あれって狙ってやったのかな。
　二回のフリースローは全て成功した。プレイのように熱くはなっていないように見える。
「やるね」
　蒼は不敵に笑う。
　試合は終わった。フリースローが切っ掛けとなって試合の流れが劇的に変わり、チームは圧勝という華々しい成果を手にした。
　――スマートな勝ち方ではないけど、熱いプレイが観客を味方につけたことも勝因の理由になるわ。
　私は頭脳派ゲーマーとしてバスケに参加する。ヒットポイントの消費を抑えて狙うよ、頂点を。
　その決意を胸に秘めて蒼はコートに立った。
　得た知識は、早速、実行された。ドリブルで単独の突っ込みを見せた直後、後方の仲間にパスを送る。
　自身はゴール下に走り込んでパスを受ける。軽い屈伸の姿勢から跳び上がるフェイントを入れて鋭いパスに切り替えた。そのボールは敵の股下をバウンドして仲間に渡り、レイアップシュートに繋げた。
　リングに蹴られることなくボールは中心を捉えた。
「ナイスシュート！」
　蒼は人差し指を立てて自陣に戻る。

　その後も頭脳を駆使したプレイが続く。意表を突くスリーポイントを決めた時は観客の盛大な拍手に包まれた。反則を誘うフェイントや動きに緩急を加えて試合を有利に進める。
　大勝はなかったが辛勝で白星を積み上げた。
　そして球技大会の最終日、一位と二位を決める頂上決戦を迎えた。敵は技を駆使して勝負を挑む。小手先の技術では対抗できないと判断した蒼はハーフタイムを利用して、仲間達に心理的な駆け引きを提案した。
「うん、いいよ。それでいこう」
「そうだね。それしかないと思うよ」
「みんな、ありがとう」
　疲労の残る顔で一同は最高の笑顔を作った。

　試合が再開された。敵の鋭いドリブルが自陣を襲う。高速のパス回しで棒立ちになる者もいた。
　蒼はディフェンスに回る。体力の限界が近いのか。動きは遅く、敵のフェイントで上体が揺さぶられる。
　十分に見せ付けたあと、蒼は切れのある動きを見せた。ボールのスティールに成功すると反撃に出る。
　示し合わせたように仲間達が走り出す。
「戻れ！」
　敵の司令塔が叫んだ。すでに遅く、シュートの態勢に入っていた。弧を描いたボールは乾いた音を立ててリングの中央を貫いた。
　仲間達は声を出して喜び、最後まで全力で戦った。

　試合は五点差で負けた。目に浮かべる涙は輝いて、誰も下を向いてはいなかった。
　蒼は軽い足取りでコートを出る。
「良いゲームだったよ」
　清々しい顔で大きな伸びをした。