【球技大会】思い出に残る初夏の大会へ｜リアクション

【球技大会】思い出に残る初夏の大会へ

　体育館の歓声が一際大きくなる。
　梓智依子がコートの中に入った。均整の取れた身体の上に背が高く、かなり目立つ。さっぱりとしたショートの黒髪に灰色の瞳がファッションモデルを思わせた。
　声援の理由はそれだけではない。
「新歓祭の時のようにド派手に決めてくれ！」
「脅威の身体能力に期待してるぞ！」
「カッコイイところを見せて！」
　新入生歓迎会で披露したダンスの影響は計り知れない。男女に関係なく熱烈な声援を受けた。
　その中に幼い声が混ざる。
「がんばってー！」
　智依子は即座に反応して手を振った。一人娘の楓が頬っぺたを赤くして全力の声援を送る。側には微笑む祖父母がいた。
　審判の指示でジャンプボールが行われる。身長と身体能力の高さで智依子が選ばれた。
　最初の空中戦、智依子が競り勝った。仲間にボールが渡り、ドリブルで敵陣に突っ込む。やや遅れて智依子が後を追う。
　ゴール下には大柄な二人が待ち構える。強固な守りを容易に想像できる。難度の高いスリーポイントは狙わず、シュートを打った。
　緩やかな弧を描いたボールはバスケットの縁に弾かれた。逸早く跳んだ智依子は片手で受け止め、そのままの勢いでバスケットに叩き込んだ。
　観客は沸いた。
「ワンハンドダンクだ！」
「無重力かよ！」
「跳びすぎだろ！」
「素敵すぎます！」
　割れんばかりの拍手に興奮の度合いが否応なく高まる。祖父母に見守られた楓は小さな手足を動かして踊るようにはしゃいでいた。
　微笑みを浮かべた智依子は我が子に向けて軽く手を挙げた。近くにいた女子がけたたましい声を上げる。
「梓様ぁぁ！　心から応援します！　頑張ってください！」
「あたしに手を振ったんだから！」
「違うよ。私だって」
　智依子は困ったような表情を笑顔に変えた。揉める女子に等しく手を振る。黄色い歓声が上がり、争いは収まった。
　その後も点数を重ねる。中心には智依子がいた。シュートだけではなかった。背の高さを活かしたプレイが光り、チームを勝利に導いた。
　一人娘の楓は飛び跳ねて喜んだ。
「ヒーローみたい！」
　その声に智依子は態度で応える。右拳を高々と上げて野性味のある笑みを見せた。

　クラスの戦績は七勝二敗で三位に終わる。現役のバスケ部や頭脳プレイに苦戦を強いられた。
　しかし、智依子は最後まで笑みを絶やさず、我が子のヒーローで在り続けた。