【三寮祭】ばっひゅーんシャッフル☆ナイト｜リアクション

【三寮祭】ばっひゅーんシャッフル☆ナイト

●猫鳴館～チャイナっちゃいな・その５

「出来たぜー。自慢の猫鳴館飯だ！」
　近石簾が大皿を次から次へとテーブルに運ぶ。繊細な料理は自分には難しいから、とそれ以外の手伝いを積極的に勝って出る姿はまさにムードメーカーだ。
「どんどん運ぶぜ、どんどん食べてってくれよな！　使った野菜は裏庭で採れてるやつだぜ」
　八宝菜、中華丼、麻婆豆腐はじめ、誰かがいつの間にか作っていた料理の数々が並ぶ。
「おいしそー！　いただきます」
　ののこが両手を合わせると、一足遅れて風呂上りの英二も同じように手と手を合わせる。
「サッパリしてからの夕食だといっそう美味しく食べられそうだね。で、このもにょもにょしてるのは……？」
「ハチノコの塩炒め」
　誰かが言った。ふりかけみたいにご飯にかけて食べるといいとかなんとか。
「こっちの黒い粒粒が入った煎餅みたいなのは？」
「コオロギパウダーで作ったコオロギ煎餅」
「そっちの如何にも形が残ってるやつは？」
「イナゴの甘露煮だよ。イナゴくらいは食べたことあるだろ？」
「ど、どうだったかな」
　英二は伸ばしていた手をそっとひっこめる。作り手らしき学生が昆虫食の栄養価や美味さについて何やら熱く語っているが、やっぱり虫料理を食べる気にはなれなかったからだ。
「意外にうめえ！」
　真っ先にそれに手を伸ばしたのは、チャイナドレスに着替えた大江戸マンモスであった。中華料理は勿論うまいが、虫やゲテモノ料理も気にせず食いまくりである。

「そうなのか。あたしも新たな味を体験してみるか」
　食に対して敬意をもって一つ一つしっかり味わっていたアシュリー・アンダーソンも箸を伸ばした。
　見た目はただの海老煎餅風のコオロギ煎餅から実食！
「香ばしくて思ったよりイケるな、これ」
　あんたもどう？　と北条冬華に皿を渡すが、冬華は涙目で首を横に振り拒否した。
「虫も激辛麻婆も苦手なので……」
「そっか。じゃあ、鶏肉は？」
「それなら大丈夫です」
「じゃああたしの分もやるよ。あたしは鶏肉のほうが苦手でさ」
　苦手なものを交換こ。
　なんだかんだ言っても自分たちで作った料理は美味いものだ。

「おーい、激辛四川料理大早食い大会始めるぞー」
　邪衣士が手招きで参加者を募った。
　真っ白な大皿の中には、地獄の血の沼みたいに赤くどろどろの麻婆豆腐がたっぷたぷ。
　簾と英二、ののこ、マンモスが喜々と参加を表明し、仙藤蒼と椎井莉鳥と月原想花は巻き込まれた。
　麻婆豆腐の味は、わりとイケた。
　ただ、辛さはツラかった。
「一口目はおいしいんだけど、辛さが後から来るよ、来すぎるよ！」
「ごめん、私、もう……」
「だめだー！　悔しいけどこれ以上ムリ！」
「この俺が食いきれないとは！」
「無念！」
　脱落者が一人、また一人と増えていく。
　そうして最後まで残った者は――。
「っはぁ！　完食！！」
　熱血がウリの自治会長の簾であった！
「自治会長の面目躍如だな」
　士が簾を労うと、簾は冷水を大量に流し込みながら、
「あざーす！」
　と笑った。
「くしひるいたひ……（くちびるいたい）」
　たらこみたいに唇を晴らしたののこが舌ったらずに訴える。
　士は湯気の立つ籠をののこの方へ押しやる。
「地下の温泉と鶏たちの卵を使って温泉卵あるぞ。食べたら辛みが和らぐんじゃないか」
「あひあと（ありがと）……はふ、はふ」
「他のやつも。ほら」
　温泉卵のやさしい味わいが染みる。
　麻婆豆腐の辛さのあとに、生みたて卵の濃厚な素朴さを味わえるのも、なんだか猫鳴館らしい。