【三寮祭】ばっひゅーんシャッフル☆ナイト｜リアクション

【三寮祭】ばっひゅーんシャッフル☆ナイト

●猫鳴館～チャイナっちゃいな・その４

「あー、温泉満喫したっ！」
　風呂から上がるとなぜかライトブルーのチャイナドレスが用意されていた。目を凝らすと細やかな藤の花があしらわせたバックレスのクールなデザインで、誰かが自分の脳内を覗いたのかと疑いたくなるくらい好みにぴったりだ。首を傾げつつも、猫鳴館だからそんなこともあるのかとチャイナドレスに袖を通し、仙藤蒼は夕食の支度を手伝うべく台所へ向かった。
「ここじゃ訪問者も問答無用で動員されるって聞きました」
「人聞き悪いこと言うなよ。皆で作って皆で食ったほうが美味いってだけだ」
　邪衣士が包丁片手に片眉を上げる。菜園の野菜を使った八宝菜を作っているところだ。
「私、料理とかあまり得意じゃないけど」
「気にするな。何か作れそうなものは？」
「中華丼なら」
　八宝菜をご飯にかけたらだいたい中華丼だ。たぶん、そうだ。
「材料同じか。一緒に作るか」
「了解ですっ」

◇

「あたしらもなんか手伝うよ」
　台所に顔を出したアシュリー・アンダーソンと椎井莉鳥が声を掛けたのは、１年生の月原想花だ。
　想花は大量の豆腐を前に難しい顔をしていた。
「料理作るのはそれほど得意じゃないけど、麻婆豆腐なら作れると思ったんだ。豆腐を切って市販の麻婆豆腐の素を入れればよい、と。しかし、そこで問題が発生した」
　無表情かつナレーション風に想花は言った。
「麻婆豆腐の素、買い忘れてた」
「なんだ、そんなことか」
　アシュリーは心配するなと言わんばかりに想花の頭をくしゃくしゃ撫でた。
「創造力でなんとかしようとすんな。今レシピ検索してやる」
　表示された材料と手順に、う、と想花は言葉を詰まらせる。
「……え？　自分で豆板醤とか入れて一から作るの……？」
「大丈夫だって。料理ってのはレシピ通り作ればそう失敗しないもんだ」
　そこからのアシュリーの頼りになることと言ったら！
　食材を切ったり炒めたりと想花と莉鳥に指示を出しながら、粛々とレシピ通りに事を進めていく。
「美味しそうな食材を無駄にしたくはないからな」
「ええ、そうね」
　返事はいいが、包丁を振った際の「ガッ！」という異音は普通じゃない。意外なことに三人の中で一番の問題児は莉鳥だった。野菜の下ごしらえはかなり大雑把。とにかくぶつ切り。レシピ？　その通りに野菜を切るなんて難易度が高すぎる、と言わんばかりの包丁遣い。それでいて顔は大真面目だから手に負えない。
「うわっ、待て待て！　動かないでくれストップフリーズ！」
　豆腐一丁を切らずに鍋にぶち込もうとしてアシュリーに必死に止められる始末だ。
「麻婆豆腐班、賑やかだな。猫鳴館っぽくていいじゃないか」
　そう言って振り返った士はそのとき突然閃いた。
「よし激辛四川料理大早食い大会でもやってみるか！」
「「「はい！？」」」
　その場にいた全員が声をひっくり返らせたが、士は自分のアイデアにうむ、と頷く。
「商品はそうだな……特に思いつかないな。記念品代わりに白黒に塗ってパンダっぽくなった木彫り熊の置物でも差し出すか？」
「あんたも作ったのか！」玄関先で同じものを見たアシュリーがツッコむ。
「いらないわ」莉鳥が真顔で拒否する。
「唐辛子、倍増しとけばいい？」平然と言う想花。
　かくして、麻婆豆腐は激辛四川料理大早食い大会用の料理として仕上げられることとなった。