ある暗闇の日｜リアクション

ある暗闇の日

●星空を見に

「うーん、どないしよ……洗濯もでけへんし夕飯もあかんしやな……」
　寝子高２年の鹿園斐美は、明かりの消えた桜花寮の自室でしばし考え込みましたが。
「そんならちょっと散歩してくるわー」
　と、冷蔵庫から引っ張り出したコーラを片手に、道着のままサンダル引っかけてふらっと外へ出かけていきました。
　帰ってきたときより暗くなった町にはネオンや照明の明かりもなく、いつもより星が綺麗に見えました。
「こら綺麗に消えてはるなぁ……星空はよー見えるけども」
　空を見上げた斐美は思いつきました。
「せや、星空見るんやったら山登ったろ！　走り込みがてら九夜山とかええんちゃう？」
　斐美はノリと勢いで、そのまま九夜山に向かって駆けだしたのでした。

（月と星の明かりくらいしか頼りにならない中でも存外、目は慣れてくるもんやな……）
　感心しながら山道を駆け上がり、九夜山の展望台までたどり着いた斐美は、展望台のベンチで胡座をかきました。
　寮から持ってきたコーラを一口……
　プシュー！
　飲もうとしたら、思いっきり吹きこぼれてしまいました。
「っはー冷たぁっ！？」
　一瞬状況を理解できなかった斐美ですが。
「コーラなんやから炭酸やん。忘れとったわ……」
　情けない顔でコーラに濡れた道着を見下ろします。
「洗濯も今日できるか分かれへんのにやってもうたやん。何ならコーラの炭酸めちゃくちゃ抜けたやんか！　格闘家か！」
　最近見たCMを思い出しながら自分に突っ込んだ斐美は。
「……いやそこは合うてんのかうち」
　ぶつぶつ言いながらハンカチで道着をぬぐうのでした。

　そしてふと夜空を見上げます。
　一面の星空は、普段なら考えられないほど美しく見えました。
「ま、ええか……星見てたらどーでも良ぉなってきたわ」
　気の抜けたコーラを飲んでスマホを取り出し、夜空を撮影します。
　幸い充電は道場に行く前にしたばかりで、しばらく心配なさそうでした。
　ねこったーに夜空写真上げたり、フォロワーらと話したり。
　すっかり寛いだ斐美ですが、ふと猫の鳴き声を聞いた気がしました。
「ん？　なんや？　どこで鳴いとるんやろ」
　ネズミの声も聞こえたようですが、近くではないようなので、気にせずに斐美はねこったーでの会話に戻りました。
「街の灯りがつくまで、のんびり待ったろ」

　それからどのぐらい経ったでしょうか。
「お！　明るくなった！」
　幸い無事電気が復旧し。
　その後帰ってから道着を洗濯することもできたのでした。

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