【星幽塔】第一階層　冒険は自給自足で｜リアクション

【星幽塔】第一階層　冒険は自給自足で

「……ま、とりあえず冒険成功ってことで。乾杯！」

　カンパイ、の声とともに、一同が杯をかち合わせる。
　といっても、酒など手に入らない。冷たい清水に、かんきつの木の実を浮かべただけの、簡単な薄荷水だ。
　それでも、冒険の後の一杯は、染みわたるほどおいしかった。

　全力全開の聖剣の一撃は、確かに強烈だった。
　広間を膾にする、の宣言は嘘ではなかった。
　柱を砕かれて、崩れ落ちそうになる建物から、命からがら脱出する羽目になったが。
　それでも、建物の後をあさって、十分な量のドラゴン肉を手にすることができた。
　見事な戦果だったといえる。

「さてそれでは、遺跡封印の前に料理といきましょう！」
　三階のダンジョンキャンプ会場に戻った一同、それぞれに料理を開始する。

　バケツとクーラーボックスいっぱいに取れたスライムをとりだしたのは、アシュリーと真白。
　スライムは星幽塔では割合ポピュラーな食べ物で、生食したり、冷やしてデザート感覚で楽しんだりする。
　健康ジューススライムのような変種もおり、以前夏朝は大量に食して、過剰に健康になったこともある。

　だが今回は、一風変わった珍味に二人は挑むつもりだ。

　大鍋の中にスライムを投入し、そのままアシュリーはグラグラと煮立て始める。
　見る間にスライムの形が崩れ、色つやのよいブイヨンのような様子になる。
　星の力や香草をふんだんに食し、洞窟内の生き物を消化してきたスライムは、一風変わった独特のうまみを有していた。
　アシュリーはそれを使って、スライムのスープを試みていた。

「できるだけ肉とかを、バランスよく取り込んでいるやつがよさそうだな……」
　そう言いながら、スライムを選別していくアシュリー。
　もちろんスライムの種類などわかるわけはない。色つやや大きさで決めていく。
　あまり大きなものは、包丁で切って鍋に放り込む。
「なんか、スープがおいしそうな感じがするな……」
　直感で素早く調理していく。
　岩塩と、途中でつまんだ白コショウを投入し、味を調える。

「それにしても、どういう味なんだろうな、これ……」
　鶏ガラのスープの味がよみがえり、アシュリーは顔をしかめた。
「まあ、まさかあんなのみてーなのってことは、ねえだろうが……」

「よーし、がんばるぞー」
　包丁片手に奮起するのは、真白。目の前に置かれたスライムとコカトリスをじっと見つめる。
　
　まずコカトリスを手早く下ろす。
　骨身と嘴は慎重に取り除き、尾の蛇の部分まで丁寧に包丁で骨を取り除く。
「えへへ、骨ゲットー！」
　丁寧な処理で、ほとんど傷のない状態の骨格が取り除かれる。
　それを植物と一緒に煮込む。
　臭みのとれた、よいコカトリスのだしが取れる。
　そこに投入されるのは、先ほどのスライム。
　煮沸しただしのなかで、ふわりと崩れていくスライム。
　そこに木の実の果汁と、調味料を加える。
「レモンみたいな香りと味のする果物を見つけたんだよ」
　十分に熱せられたスライムのだしを、今度は清水に浸けて冷やす。
　見る間にゲル状に固まっていくスライム。
「寒天みたいだよね。スライムって、温めると溶けて、冷めると固まるんだね」
　スライムの素材を観察することで、特性を見出した真白。
　潤沢な知識と、好奇心によって、魔物料理の可能性を広げる。
　スライムを冷やしながら、コカトリスを鉄板で焼く。
「ジューってね」
　水分の多いコカトリスの肉は、盛大な音を立てて焦げ目をつける。
　皿に盛ったコカトリスに、半分固まったゼリー状のスライムを載せて、完成。
　遺跡内の星の力の光源に、スライムのゼリーが反射して、なまめかしい色を放った。

「コカトリスステーキ、スライムジュレを添えて――だよ！」

　見た目にもこだわった、グロテスクな魔物料理と思えない一品。
　我ながらうまく作れた、と真白は胸をそらす。

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