《灰色猫テオの事件簿》誰がおにぎりを殺したか｜リアクション

《灰色猫テオの事件簿》誰がおにぎりを殺したか

●南校舎と北校舎

「おーい！」
　頭上から声がする。
　ハンディカメラを手にした学が南校舎の屋上から見下ろしている。
「南校舎から中庭に直接出る出入り口はないって言っても、おにぎりを落とすぐらいなら、パチンコとかドローンとかなんかしらあるわけじゃん？」
　学は片手にカメラを構えたまま眼下に向かって叫ぶ。
「おにぎりを空中分解させずになにかで打ち出すってのは難しい気がするわー」
　中庭にいた美野梨が答える。
「じゃ、ドローンで落したってのはー？」
　今度は五十嵐が屋上に叫び返した。
「さすがにドローンが飛んでいたらわかると思いますよ。あれは案外大きなプロペラ音がしますから！」
　プロペラのような音は俺も聞いていない。
　その後、学は中庭に戻って来て、改めて調査のはじめに中庭から360度映した映像を確認する。北校舎の窓は開いているものもあったが、南校舎側の窓はすべて閉まっていた。
「南校舎から殺した説は難しいかー」

「南校舎は無理でも、北校舎はどうかな……」

　ぽつり、呟いたのは夏夜だった。
　彼女は北校舎にいたというウォルターに向き直る。
「ウォルター先生。野々さんの悲鳴を聞いて中庭に飛び出してきたようですが、その直前はどこにいらっしゃったのでしょうか」
「どこって……北校舎１階の特別教室だよぉ」
　メモを取っていた時子が質問を差し込む。
「窓から噴水が見えたとおっしゃってましたよね……それはあそこの窓が開いている教室でしょうか」
　時子が指さしたのは、北校舎からちょうど噴水が見通せる教室だ。
「そうだよぉ」
　時子はメモを取る手を止め、首を傾げる。
「あそこって芸術科の特別教室ですよね。英語の先生と縁はなさそうですが。それに、ウォルター先生は絵をかいたりするのは苦手だったかと……？」
　時子が質問を重ねる。

「先生は北校舎で何をされていたんですか？」

「何って……ただの見回りだけれど？」
　ウォルターの表情に特に変化はない。しかし夏夜はその空いている窓と、おにぎりが置かれていた場所、噴水の中でおにぎりが死んでいた場所の位置を改めて確認して、言った。
「先生は白い魔弾とあだ名されていますよね。恐れ入りますがチョーク残数を確認させていただいても？」
「いいよぉ？」
　ウォルターはポケットからプラスチックのチョークケースを取り出した。
　真新しいチョークが５本、きちんと並んでいる。空きはない。
「減ってない……これ以外に持ち歩いてもいないですか？」
「うん。何故こんなものを見たがるのかなぁ？」
　ウォルターはなんだか面白そうにくすくす笑っている。
　夏夜はウォルターに一礼して、デジカメで北校舎を撮影した。

「夏夜さん」
　ウォルターの目を盗んでサキリが夏夜に話しかけている。
「君が何を考えたか、僕にはわかる。単純に考えるならウォルター先生の魔弾は真っ先に疑いたくなるね。そして、北校舎の空いた窓からおにぎりへの斜線は通る」
「そう……そして、噴水の中のおにぎり殺害現場までも一直線になる」
「仮に北校舎から投擲したとして弾道や投げる姿をサンマさん達に目撃される可能性はあると思う。バレずに投げることは可能だろうか」
「可能……だと思う。噴水の周りにいたのは野々さんとサンマさんとテオ。テオがいたところからは、ちょうど噴水の吹き上がる水で窓が見えない。野々さんとサンマさんについては、事件発生時、ちょうどサンマが見つからなくてきょろきょろしてたという話だったよね。北校舎の窓の方に気付かなかったとしても不思議はないと思うんだよ」
「ウォルター先生が北校舎から射撃することは可能ということだね。けれどチョークは減っていなかった。噴水の中にもなかった。とすると、凶器は？」