《灰色猫テオの事件簿》誰がおにぎりを殺したか｜リアクション

《灰色猫テオの事件簿》誰がおにぎりを殺したか

●現場検証・その３

　英二がふうむ、と腕組みする。
「先生たちは噴水近くに他の人がいなかった、と言ってるけど、もしかすると噴水に隠れて見えない“誰か”がいたのかもしれない。野々さん、」
「ふぇ？　な、なに、英二くん？」

「野々さんとサンマさんとテオ以外に“誰か”を見かけた？」

「ううん」
　ののこは首を横に振った。
　しかし英二と同じ可能性を考えたらしいルイセは、慎重に木々の間を調べていく。
「気を付けてください！　オウガキラーを倒すなら、かなり強力な武器を用いてるかも……」
「うん？」
「魔法陣はありませんか？　強力な魔法を行使したかもしれません。ヤモリの黒焼きとか、サンマの目玉とか、マタタビとか……怪しい儀式に使えそうな素材が出てきたら、強大な悪の魔法使いの仕業かも！？」
「たぶんその心配はないかなって思うんだけど」
「油断したら、やられる！」
　くわっと刮目するルイセの迫力に、一同ごくっと唾を飲み込んでしまう。
　いや、でも、やっぱり……オウガと魔法陣が犯人の可能性はかなり低いだろうと俺は思う。

　高校の中庭で真剣にオウガや魔法陣を探すルイセは置いておいて、英二はののこに向き直った。
「魔法使いはともかく、テオとは別の猫とか上空から飛んできたカラスとかがいた心当たりとかないかな？」
「犯人はテオ以外の猫や鳥かもってこと？」
「その可能性も考えないとね」
　すると美野梨がそっと手を上げた。
「その件なら私も調べてみたんだけれど」
　美野梨は＜友との語らい＞で、猫科の生物や鳥類全般と念話が出来る。ろっこんのことはののこの手前明かせないが、先ほど近くの小枝に止まっていたスズメに話を聞いてみたのだ。
「テオ以外の猫やカラスはいなかったようよ。ただ……」
　美野梨は声を顰めて、探偵たちにだけそっと伝える。
「スズメが ”空飛ぶサンマ”って言ってるの。何のことかわかる？」

　そのとき四つん這いになって周りの痕跡を調べていた流が声をあげた。

「……これ、足跡じゃないか？」

「本当だ。靴底からすると、革靴っぽいね。門の方から中庭に入って来て……北校舎の方へ向かっている？」
　英二も薄目で足跡を追う。
「この足跡の“誰か”に、心当たりとかないかな？」
　それで俺は思い出した。
　同じことを、ののこも思い出したようだった。
「その足跡はきっとウォルター先生だよ。さっき、ウォルター先生がここを通りかかったんだった」
「それって事件の前？　後？」
「事件の１０分くらい前だったかな」
「何か話したの？」
「つい『おにぎり食べますか』って。そしたら『食べない』って言われて、ほっとした～。私の分がなくなるところだったよー」
「そうなんだ。結局なくなったけどね」
　英二は足跡の場所を確認する。
「足跡、噴水に直接は近づいていないね」
　念のため英二はスマホで撮影した。
「足跡と噴水までは２メートル以上離れている。時間的にも１０分もずれているし……。流石に、通りすがりにおにぎりを殺したとは考え難いなあ」