甘い束縛、溺れる二人｜リアクション

甘い束縛、溺れる二人

「風呂に入ろうぜ！」
　その声で花風冴来は目を覚ました。手にはテレビのリモコンが握られている。深夜テレビに夢中になり、いつの間にか眠っていたようだった。
　そこに軽やかな電子音が響く。中性的な声で風呂が沸いたことを伝える。
「でも、この鎖は？」
「付いたままでも入れるぜ。取り付ける前に試したからな」
「じゃあ、入ろうかな」
　苦笑いでベッドから降りた。
　酒浸朱蘭は洋風のチェストから二人分のネグリジェ、それにショーツとブラジャーを取り出して浴室に駆け込んだ。
「バスタオルはこれだからな」
「身体を洗う物は？」
「最高のものを用意するぜ」
「そう、先に入るね」
　冴来は着ていた薄青いネグリジェを足元に落とす。下着は上から順に脱いだ。白い裸身を恥ずかしがるように中へと入った。
「凄いね」
　湯で煙っていても広さがわかる。大きな楕円形の浴槽にはジェットバスの穴が複数あった。物珍しいと言わんばかりに見回す。
　隅に積まれたバスチェアの一つを掴み、奥まったところにあるシャワーの手前に置いて座った。目を落とし、五つの容器を眺める。それぞれに用途があり、爽やかな花の匂いがした。
「待たせたぜ」
　後ろに振り向こうとすると、両肩を掴まれた。ぽんぽんと叩いて、任せるんだぜ、と力強い声で言った。
「じゃあ、お願いね」
「まずは頭を下げて欲しいんだぜ」
　言われた通りに頭を下げる。朱蘭はシャワーヘッドを手にした。掌に湯を当てて温度を確かめると金色の髪の全体を濡らしていく。
　ポンプ式の容器を五回押して液体を掌に馴染ませる。上質な生地に触れるような優しさで髪に塗り込む。
「洗うぜ」
　両手を使って泡立てる。先端まで洗い終わるとシャワーで流した。髪全体を軽く絞って余計な水分を取ったあと、毛先からリンスを付けた。頭皮に付着しないようにして素早く洗い落とす。
　長い髪は緩く結んでお団子にした。
「あとは身体を洗うだけなんだぜ」
　朱蘭はボディーソープの中身を掌に出して両手で擦り合わせる。
「洗う物がないんだけど？」
「あたしの手があるだろ」
　泡立った手で冴来の白い背中を擦る。腰の部分に手がくると笑い声を上げながら身体をくねらせた。
「くすぐったいって。それにどうして手なのよ」
「手は肌を傷めないし、シルクよりもいいんだぜ」
「本当に？　私に触りたいだけじゃないの」
　疑うような声に、ち、違うんだぜ、と撥ね上がった声で手を動かす。腋と股間は断られた。胸に回した手はやんわりと握られる。
　冴来は微笑を浮かべた顔を後ろに向けた。
「胸は洗いっこね。ただ洗うだけだとつまらないから、声を出した方が負けってルールでしようよ」
「受けて立つんだぜ」
　二人は向かい合わせで座った。泡立った掌で互いの胸を洗う。丸みに沿って優しくなぞり、頭頂に掌を掠めるようにして感度を高めた。
「朱蘭、顔が、赤いよ」
「冴来は口が、開いてきて、るんだぜ」
　どちらも声がたどたどしい。妙に身体を揺すって息遣いが聞こえ始める。
「息は、声とは、違うから……」
「こっちも、そう、なんだぜ……」
　互いの身体を洗いながら顔を近づけていく。挑戦的な目で睨み合う。声が漏れそうになった瞬間、同時に前に動いた。
　二人の唇が合わさった。泡塗れの身体で抱き合い、蕩けるような目で相手の口にむしゃぶりついた。

　三十分後、二人は浴槽に向かい合わせに座る。やや疲れた表情で共に笑った。
「こうなるような気がしてたけど、本当に疲れたわ」
「あたしもくたくたで、今にも目が閉じそうなんだぜ」
「でも、悪くないわ」
　冴来は浴槽の縁に後頭部を乗せた。ゆっくりと回る湯煙をぼんやり眺める。
「……嬉しいんだぜ」
　朱蘭も同じような姿勢となり、目尻を指先で拭った。

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