雨の中のワルツ - a waltz in the rain｜リアクション

雨の中のワルツ - a waltz in the rain

　地獄から一気に天国へ、真白は心からさっぱりした気分だ。
「本当助かったよ、気持ちよかったー」
　紅美に迎えられる。
「リフレッシュしたねえ」
　水気をきったブラを身につけ、おむつは新品に替えて他の服は借りて、頭にタオルを巻いた真白は見も心もほかほかである。
　こっちだよ、と二階にある紅美の部屋に案内された。
「へぇ、ここが紅ちゃんの部屋なんだ」
　クリーム色の壁紙、カラフルではないもののさっぱりした内装だ。八畳はあるだろうか。よく片付けられている。大きなベッドと学習机、テレビもなかなかの大型だ。鏡台まである。壁かけカレンダーはTCG『A Tale of the Sky』のオフィシャルグッズだった。昨年末、『クラン＝G』で売られているのを見た記憶があった。
「部屋、きれいにしてるんだねー」
「たまたま。今朝ハウスクリーニングが来ただけだから」
　こともなげに言うと紅美は鏡台の前に真白を座らせた。
「ドライヤーかけたげるよ」
「ありがとう」
　素直に厚意を受けることにする。まもなく丸みのある温風が真白の髪をなではじめた。
「服の乾燥をまつ必要もあるけど、雨がやむか小降りになるまでゆっくりしていきなよ」
「それじゃ、なにしよっか？」
　紅美と遊ぶとなれば最初に思いつくのはTCGだが、あいにくと今日はデッキを持ってきていない。
「じゃあスマホゲーの協力プレイでもする？」
「いいねいいね」
「でなきゃ買ったばかりの『新★魔法少女大戦！』もあるよ」
「意外！　あれ買ったんだ」
「まあね。『椛（はな）の子ギュワンギュワン』が使えるし」
「それすごーく古いアニメじゃない？　なんで知ってるの？」
　などとおしゃべりしたり遊んだり、小一時間ほどすごしたところで、ふと我に返ったように真白は言った。
「あ、ものすごい今更なんだけど……急に来ちゃって親とか大丈夫だった？」
「大丈夫じゃない？　ていうかあれで歓迎してるつもりらしいよ、あの人。『部屋には絶対来るな』って言っといたから遠慮してるみたいだけど」
　せっかくだから夕食、食べてってくんない？　と紅美が言ったので真白は驚いた。
「いやでもそこまで……」
「いいって。どーせ父親は帰ってこないし、ギャンギャンうるさい犬とあの人とだけじゃ息が詰まるし」
　むしろいてほしい、と紅美は言うのである。
「いいでしょ？　ね？」
　どうやら真白に、断るという選択肢は与えられていないようだ。

　夕食はクリームシチューだった。