雨の中のワルツ - a waltz in the rain｜リアクション

雨の中のワルツ - a waltz in the rain

　うっひゃぁ！　と心のなかで白真白は叫んだし、実際口に出していたと思う。
　滝みたいな豪雨だ。
　脚が八本になったくらいのあたふた具合と駆け足で、真白は公園の滑り台の下に飛び込んだ。とてつもなく古い。数十年前はきっと青空と夕焼けみたいな色だったのだろう。しかしいまは血の匂いがしそうなほど錆びていて、塗装も剥げ落ちた鉄の化石だ。
　そんなだから雨宿り場所としては適切ではない。ぽたぽたと雨水は漏ってくるし、横風に軌跡を曲げられた細かな雨は降り込んでくるし。
　でも屋根があるのとないのとでは大ちがい。ようやく我が身を調べられるようになってため息する。
　濡れそぼち程度を十段階で評価するなら現段階は八、いや、満点に近い九を与えるにためらう必要はなさそうだ。
　思いっきり降られちゃったよぉ。
　気象人工衛星に苦情電話を入れたい。たしか朝の天気予報は『晴れときどき曇り』だったはずだから。
　上から下までもうびしょびしょのぐしょぐしょだ。
　髪なんてほとんど養殖中のワカメだもんね。
　おむつまでしみて吸っちゃってるし、これはもう限界だなぁ。
　だけど靴だけはかろうじて、まだ水たまりにはなっていなかった。
　抱きかかえるようにして運んだリュックをチェックすると、不幸中の幸いかスマホも、下の替えもまだ乾燥世界の住人ということがわかった。あと、店で購入したものもレジ袋に入っていたおかげで軒並みセーフだ。
　マイバッグを忘れてレジ袋買ったけどそこは不幸中の幸いだったのかも――。
　といっても最大の不幸は傘を忘れたことだ。まちがいない。
　へっくち、とくしゃみが出た。
　問題は雨より風かもしれない。濡れて服が張りつく感覚には我慢ができても、寒さのほうはそうもいかない。あと、おむつもぐちょぐちょもなかなかに居心地が悪かった。
　脱いでぎゅーっと絞りたいけどそれはさすがに、ねえ。屋外だし。
　屋外という言葉で気がついた。
　ぺったり張りついたブラウスは白だ。つまり、
「うわ……服透けちゃってる！」
　ブラもおむつも見えちゃってる……！？
　真白は露出趣味の人というわけではないしむしろその逆なので、危険なことになったと言わざるを得ない。
　まだ全然止む気配もないし、止むまで待ってたら風邪ひいちゃいそうだなぁ。
　今日はさんざんだった。星ヶ丘まで買い物に出かけたのはいい。セレクトショップで買い物をすませたところまでは好調だった。ところが天気予報を素直に信じて、曇ってきた空に無防備で出たのが悪かった。
　店を出てしばらく行ったところで、不意打ちというにも極端すぎる雨に遭遇したのだ。
　家のある方角をうらめしげに見つめる。
　ダッシュして帰った方がいいかな。
　でも問題は、家までまだ結構距離あるよね……ということだ。
　あー、もう。
　乾いたタオルとドライヤーが恋しい。
　一度空をにらんで考える。
　紅ちゃんの家ってこの近くだっけ。
　……タオルだけでも借りれないかな。
　スマホを取り出すと、真白は電話のアイコンをタッチした。

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