雨の中のワルツ - a waltz in the rain｜リアクション

雨の中のワルツ - a waltz in the rain

「いやもうこんな降るなんて思わなくてさあ、参ったね」
　ここにいたるまでの事情をののこは語った。どうやら英二と同じで、学校帰りにシーサイドタウンに寄ったらしい。同じじゃなかったのは、彼女が傘を持っていなかったということだ。
「まあいいやえーい、と飛び出した結果がこれだよ」
　ののこは制服の前をかき寄せるようにしている。前髪からぽたぽたと雨水のしずくがしたたり落ちていた。
　服のままプールに飛び込んだような状態だった、つまり。
　透けて――。
「！」
　慌てて英二は視線をそらせる。
　意識せぬまま見つめてしまった。彼女の肌に貼りついたブラウスから、ブラジャーのラインのようなものが見えたと思う。
　記憶から消したい。でも消せない。
　顔が熱い。
「ご、ごめんあの……じろじろ見てしまって」
　ののこは英二の真意に気づいていない様子で笑った。
「アハハ、私ってばバカだよねえ。笑ってくれていいよ」
「いやそういうんじゃなくて、とにかく、ごめん」
　英二はののこに顔を向けないようにして自分の傘を差し出した。
「野々さん、使って」
「だめだよそれだと英二くんが……っていうか相合い傘する？」
「ちがうんだ。僕、偶然もう一本もってきてたから」
　カバンから折りたたみ傘を出す。
「おお、すごい！　英二くんてもしかして実家は傘屋さん？」
「いや、単にうっかりしてただけ。カバンにずっと入ってたんだ。だから気にしないで」
　じゃあお借りします、と言ってののこは傘を受け取った。
「地獄に仏とはまさにこのことだねえ。いくらビシャビシャでもやっぱり傘あるほうがいいよ」
　ののこは傘をさしたが、英二の折りたたみ傘のサイズに気がついた。
「そっちだいぶ小さいじゃない？　私がそれ使おうか？　どうせ濡れネズミちゃんだし」
「いや、いいんだ僕これ使い慣れてるから」
　我ながらいささか無理がある表現だと思ったが、英二はそう言ってうなずいた。
　野々さん気づいてないかもだけど――。
　濡れた体を隠すためには、大きな傘が必要だろうから。
　行く手はまるで嵐だ。雨の勢い激しいままで、これは傘があろうがなかろうが、つききるには相当な覚悟が必要だろう。
「ちょっとしたチャレンジだよね」
「だね……走ったほうがいいかも」
「じゃあいこう。英二くん用意はいい？」
「うん」
　さん、にー、いちっ、とタイミングを合わせ、英二とののこはガード下から飛び出した。