ことのはあそび　～新た夜～｜リアクション

ことのはあそび　～新た夜～

●魔王も春の陽気には勝てず

　折河樹は、有名ネット小説家になることを夢見て、鉄火丼というハンドルネームで小説を書いている。
　好きなのはファンタジー系の小説。
　設定に凝り過ぎてしまうため執筆速度は遅めだが、深く掘り下げられた世界観の作品を良く書く。
　そのため、そこそこファンはついているようだ。
　小説の世界観に深く入り込んで登場人物のロールプレイをするのが得意なので、登場人物の評価は特に良い。
　昼夜問わず様々な設定の夢想に耽る。
　妄想癖と合わせて軽度の厨二病な行動を良くとることもあるので、登場人物の設定を考えるのは得意だ。

　今、彼は執筆中の小説の構想を練っている。
　剣と魔法の物語、近代科学や技術がまだ発見されていない空想世界が舞台ということ。
　勇者が活躍するのはありきたりということで、魔王を主人公とした話にするというのは決まったのだが、これで良いのかと悩んだ。
　考えすぎたらお腹が空いたので好物の鉄火丼を食べたが、それでも煮詰まってしまう。
　ならば、と得意の登場人物ロールプレイを活かす。
　俯いたかと思うとゆっくりと顔を上げ、前髪を掻き上げ、悪役のように目を吊り上げると口角を上げた笑みを浮かべる。
「くくく……」
　悪役含み笑いをし、前を見据える。彼は、冷酷非情な魔王になりきる。
　人物像はだいたい固まったが、もうひとつ問題が。
「魔王らしい台詞とは何だ？」
　腕組みをして考えるが、どのようなものが相応しいのかわかりかねる。
　長時間考えても浮かばない。
　そんな時、あの出来事を思い出した。
　サイゼリニャで人気メニューを当てるという番組に出演した時、彼は鉄火丼がランクインされているだろうと堂々とそれを注文した。
　ところが、結果がランク外。
（鉄火丼の素晴らしさがわからんとは……）
　あれから随分経ったが、今は、そう思えてならない。
　怒りで、全身がどす黒い地獄の業火に焼かれているように熱くなった。
　怒りが爆発した樹は叫んだ。

「闇の炎に抱かれて死ね！！」

　その後に「これは……！」といった表情に。
「これだ！　これぞ我が魔王像！！」
　忘れないうちに、魔王の設定を書き留める。
　それはいいのだが、凝り性なので台詞は設定と共に二転三転する。
　あれこれ考えすぎたことと、春の陽気で、樹は眠たくなってきた。
「魔王たるもの、春眠暁を覚えずとは……」
　そう呟くと、机に突っ伏して眠ってしまった。

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