【新年度】サクラサク、ひとつ大人になる四月｜リアクション

【新年度】サクラサク、ひとつ大人になる四月

●新入生の誓い・その１

「レディース、エンド、ジェントルメン！　ウェルカムトゥーーーネーコジマァ高校！」
　陽気な白猫の着ぐるみ（旅鴉月詠）が現れてマイクをとった。
　お堅い式典はここまで。
　ここからは寝子高らしいハチャメチャさを目いっぱい新入生に味わってもらう趣向のようだ。
　白猫の着ぐるみに手を引かれ、黄色いリボンを付けた喜矢武あいおが壇上に引き上げられる。
　舞台袖では雨崎楓香があいおと同じように緊張した面持ちで見守っている。
（がんばれがんばれー……）
　あいおは汗ばむ手でマイクを握った。何をすればいいのかは分かっている。
「し、新入生の誓い！　1年5組　喜矢武あいお。僕は……」
　言いかけてやめる。
（今はみんなが注目するステージの上。ここはアイドルモードでしっかりアピールしなければ！）
　ひとつ大きく深呼吸する。この場面で使う一人称は『僕』じゃない、『あいお』だ。

「あいおの目標はただ一つ！　この寝子島高校のトップアイドルになることでーす！」

　花咲夢乃がはっと顔を上げた。探していた宝物を見つけたみたいに瞳を輝かせてあいおを見つめる。
（私と同じアイドル志望の子、見つけた！）
　あいおは続ける。

「あいおの考えるアイドルとは……
　完璧なパフォーマンス！
　圧倒的知名度！
　地域貢献！
　文武両道！
　お高くとまらず！
　親しみやすく！
　笑顔絶やさず！
　そんな寝子高生を目指して頑張ります
　期待の新入生、喜矢武あいお！　喜矢武あいおをどうぞよろしくお願いしますねぇ！」

　ウィンクして壇上を降り、席に戻ると早速周りの生徒たちから声を掛けられる。
「頑張ってね」という応援もあれば、「お前本気かよ」と笑う声もあったが、どちらも想定内だ。
（応援してくれる人はファンとして大切に、笑う人はいつか見返してやる原動力にするんですから！）
　そう、まだすべてはこれからなのだ！

◇

　続いて白猫によって壇上に導かれてきたのは小柄で赤毛の少女であった。
　さきほどのアイドル志望の子に負けていられるかと言わんばかりに、彼女はみかん箱持ってきてその上に乗り、高い位置から会場内を堂々と見渡す。とにかくインパクト重視だ。

「寝子中から寝子高へ進学してきた大江戸マンモス！
　得意科目数学！　苦手科目古文！
　彼氏いない暦イコール年齢！
　勉学と青春をしゃぶり尽くし堪能するべく邁進するです！
　追伸！　出来れば身長を20cm伸ばしてえです！」

　正直、名前だけでウケも取れる。見た目が小動物めいた小柄な女の子と来たら猶更だ。
　べらんめえ口調も相俟って、狙いどおりのインパクト。先輩の席からはひゅうっと口笛も飛んでくる。
　その反応に満足しつつマンモスが顎をしゃくると、白猫がブロックと重ねた瓦を運んできた。

「最後に一発芸を披露するです！
　頭突きで瓦割り１０枚！
　見やがれですうぉりゃあー！」

　気合一閃、額を瓦へぶつければ、１０枚纏めて見事にバッカリ！！！
　うおおお、という驚きの喚声。保護者席の高瀬誠也も拍手せずにはいられなかった。
（そうそう、新入生はこうでなくちゃ。このばかばかしいくらいの清々しさが堪らないんですよ）
　胸がすくとはまさにこのこと。
　普段のストレスも吹っ飛ぶというものだ。

　瓦を割ったマンモスはふしゅーと蒸気めいた息を吐くと、上級生の席から飛び出しているアホ毛に向かってメンチを切った。アホ毛とはもちろん野々ののこである！
（あれが噂に聞くののこという三年生ですか。
　なんでも「らっかみ」とかいうオカルト存在なのだとか？
　見た目はフツウの生徒ですね）
　マンモスは科学の信奉者だ。天から落ちてきた少女なぞ、あり得なさすぎて、一言でいって敵だ！
　しかし上級生に対しては敬意を払う。
　あとで握手でもしにいこうじゃないか。
　ライバル認定した相手にも礼儀正しい――それがマンモスという少女である。
　何卒お見知りおきを。