【新年度】サクラサク、ひとつ大人になる四月｜リアクション

【新年度】サクラサク、ひとつ大人になる四月

●新入生たち！

　全員が席についたのを見計らうと、今年から再び教頭に復帰した黒崎俊介先生が会場袖のマイク前に立つ。教頭が会場を見渡すと、場はしんと鎮まった。
「開式の言葉。これより寝子島高校入学式を執り行います」
　新入生の花咲夢乃は響く低い声に、自然と姿勢を正していた。
　手元のプリントにある式次第に視線を落とす。
（開式の式辞、校長の式辞、祝電の披露、生徒会長の挨拶、新入生の誓い、校歌の斉唱……）
　入学式はそのような順番で進んでいくらしい。
　アイドルが大好きな夢乃は、寝子島にはアイドルが多いと聞いて寝子島高校を選んだ。多いかどうかはわからないが、ご当地アイドルとして活動する生徒がいたりするのはたしかだ。
　隣に座った人がアイドルだったりするかもしれない、まだアイドルじゃなくても原石かもしれない、そんな人がいたら応援し合いたい、とワクワクしながら同級生たちをチェックする。
　まず目を引いたのは黒と白の髪をした滴だ。
（まあ、個性的な髪の色ですわね……半分銀髪に染めてらっしゃるのかしら？）
　それから壁に沿うように並ぶ１年生の担任達の中に、先日バス乗り場で知り合ったアイドルみたいな先生、雛鳥さゆりの姿を見つける。
（さゆり先生、相変わらず可愛い……緊張してらっしゃらないかしら？　ちょっと心配ですわ）
　そこからさらに視線をずらし、自分のクラス担任のジャン・ポランスキーを見て、
（私のクラスの先生は、アイドルじゃなくディレクタータイプですわね）
　などと思ったりする。

　夢乃よりいくつか後方の席には、星幽塔に住むほしびとから分離した存在である喜矢武あいおがいた。
　あいおは気づけばこの世界で『幼い頃両親と死別、親戚の家を転々として現在は寝子島で一人暮らし』ということになっていた。今の目標は、ほしびとの相方が叶えられなかった寝子高生を楽しむことと、歌で超人気配信者になることだ。
　受付で渡された黄色いリボンをそっと撫でる。
（やってきました入学式！　見てくれる家族はいないけど僕は大丈夫。《新入生の誓い》で有名人になる第一歩を踏み出して、寝子高生生活を存分に楽しむんですからねっ）
　
　大江戸マンモスもまた、黄色いリボンを貰って意気揚々とその時を待っている。
（まあ貰わなくても最初からやるつもりでしたけどね！）
　式次第は校長の式辞に移っているが、マンモスはだんだん瞼が重くなってきた。
　好々爺然とした雨宮草太郎の話が長すぎるからだ。
「……――であります。そのようなときシトラス・ガムダンは――……」
　振り返れば、在校生の席では在校生たちのうんざり顔が並んでいる。
（まさかと思ったけど、校長先生、シトラス・ガムダン話を新入生相手にかます気満々だなんて。はぁ……）
　水上桜がため息をつく。
　恵御納夏朝も思っている。
（今年も校長先生の話は長いなぁ……どうしてこんなに長くなるのかな）
　どうしてなのか？　それは寝子高七不思議のひとつにそろそろ数えられてもよい謎だろう。
　とうとう黒崎教頭がチンチンチーンとベルを鳴らした。
「それでは祝電の披露に移らせていただきます」
　校長先生がステージからおり切らないのに進行する教頭を無礼と思う者は誰もいない。参列者たちはむしろ感謝を込めて頼もしく見守ったのだった。