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- 00月00日生 00歳
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【新年度】サクラサク、ひとつ大人になる四月
●その名の意味は「悪意」
朝鳥 さゆるは３年４組の教室の窓から外を眺め、ため息をつく。
ホームルームが終わり３０分もしないうちに、クラスメイトたちは皆下校してしまった。
淡い色のカーテンが揺れて、見慣れない角度でグラウンドが見える。もっとも、１年生の時も２年生の時も教室からの景色が見慣れるほど学校に来たことはなかったけれど。
（じゅんに言われるまま、学校に顔を出してみたけれど……）
じゅんとは、現在身を寄せている先の同居人、姫木 じゅんのことだ。彼女の勧めで登校したのだ。初日くらい学校に顔を出したら、高校生じゃなくなったら行けなくなる場所なんだから、と。
けれど結局は、およそ制服が似合わぬ、大人びた――年齢不相応の憂鬱で退廃的なと言ってもいい――美貌と、ふだん見かけないもの珍しさが相俟って無神経な視線を向けられる羽目になった。
そんな視線には慣れている。……というより、何も感じないという方が正確か。『彼女は哀れで自業自得な犯罪被害者』――視線たちがそう語っているのが聞こえるようで、心を凍らせてやり過ごすのが当たり前になってしまっている自分がいる。
（何故来てしまったのだろう）
しいて言えば、あの女から逃げるためかもしれない。
Maliceという、狂気じみた執着で自分を追い詰める女。じゅんの部屋に身を寄せる羽目になったのは、彼女に付き纏われるのが嫌になって、姿を消した恋人の片篠 藍人との思い出深い部屋を出ていかざるを得なかったからだ。その部屋には今、Maliceが住んでいる。さゆるの中の思い出を人質に取っているようなものだ。そうしておいて、彼女は気まぐれにさゆるを呼び出しては貪ったりしている。
誰もいない教室でひとり、窓の桟に凭れて外を見ていたさゆるは、不意の人の気配に振り返った。
視界に入ったのは甘い香りの中に悪意と揶揄を纏わせた女。
「Malice」
苦く呟く。
彼女は――彼女の体は、というのがより正確か――去年、寝子高を卒業したＯＧだ。
先生にでも会ったら葉利沢 倫理子と名乗るのだろう。それがMaliceの主人格の名だから。
Maliceが倫理子の意識を乗っ取っている時間は近ごろとても長くなっていた。
目立たない色の他所行の服を纏って、まるで新入生の保護者であるかのような顔をして、もう卒業した学校にまでさゆるを掴まえにきたことも、倫理子の記憶には残らないに違いない。
「どうしてここに……」
さゆるの問いかけに、Maliceはにぃ、と唇を引いた。
「どうして？ あなたに会いたかったからよ。どうやってあなたがここにいることを知ったのか、という意味なら、クラス替えの掲示が出ていたから教室は分かっていたの。入学式をやり過ごし、ＨＲが終わるまで待っていたわ。案の定、あなたはなかなか教室から出てこなかった。学校は嫌いだけれど落ち着いて帰る場所もない。思考停止、行動停止……そんなかんじかしら？」
行きましょうか可愛いお人形さん。
Maliceは音に出さず口を動かすと、黙るさゆるを導くようにして並び、学校を出た。
向かった先は、藍人との思い出深いあの部屋だった。
時が過ぎ、重苦しい遮光カーテンの隙間から差し込む夕日の朱い光が瞼を貫くのを感じて倫理子は意識を取り戻した。ここがどこなのか一瞬見失っていた。まず認識したのは、シーツにくるまってはいるが、自分が一糸纏わぬ姿でいること。それから同じように一糸まとわぬ少女が隣で目を瞑って横たわっていること。
「……っ」
何があったかを悟り、息を呑む。
その気配に気づいたさゆるが気だるげに目を覚ました。
「Malice……いいえ、倫理子？」
さゆるは倫理子の表情から人格交代したことを悟ったようだ。おそらくMaliceは意図的だろう。
「……あの女、どこまで倫理子を傷つける？」
苦々しく吐き出される言葉を聞いた倫理子は、みるみる表情を崩してさゆるに抱き着いてきた。
「朝鳥さん……お願い、私を、私をもう一度抱いて、Maliceのことを忘れさせて……！」
甘い、とさゆるは思った。
そうすることが何かの贖罪になるとでもいうのだろうか。
いや、なりはしないだろう。
そして何かを癒しもしない。
自分に出来ることは、泣きじゃくる倫理子の肩を優しく押し返して拒絶することだけだ。
「自分で自分を傷つけるものではないわ。あなたがそんなだから、奴につけ入れられるのよ」
倫理子は目を見開き、いやいやするように首を振る。
涙が次から次へと頬を伝う。
けれどさゆるは構わず服を着、そんな倫理子を置いて部屋を出た。
部屋の中にすすり泣く声が充満する。
そのうちに意識が落ちて……倫理子はMaliceに戻った。
涙に濡れた顔に悪意の微笑を浮かべて。
Malice──その名の意味は「悪意」。
朝鳥 さゆるは３年４組の教室の窓から外を眺め、ため息をつく。
ホームルームが終わり３０分もしないうちに、クラスメイトたちは皆下校してしまった。
淡い色のカーテンが揺れて、見慣れない角度でグラウンドが見える。もっとも、１年生の時も２年生の時も教室からの景色が見慣れるほど学校に来たことはなかったけれど。
（じゅんに言われるまま、学校に顔を出してみたけれど……）
じゅんとは、現在身を寄せている先の同居人、姫木 じゅんのことだ。彼女の勧めで登校したのだ。初日くらい学校に顔を出したら、高校生じゃなくなったら行けなくなる場所なんだから、と。
けれど結局は、およそ制服が似合わぬ、大人びた――年齢不相応の憂鬱で退廃的なと言ってもいい――美貌と、ふだん見かけないもの珍しさが相俟って無神経な視線を向けられる羽目になった。
そんな視線には慣れている。……というより、何も感じないという方が正確か。『彼女は哀れで自業自得な犯罪被害者』――視線たちがそう語っているのが聞こえるようで、心を凍らせてやり過ごすのが当たり前になってしまっている自分がいる。
（何故来てしまったのだろう）
しいて言えば、あの女から逃げるためかもしれない。
Maliceという、狂気じみた執着で自分を追い詰める女。じゅんの部屋に身を寄せる羽目になったのは、彼女に付き纏われるのが嫌になって、姿を消した恋人の片篠 藍人との思い出深い部屋を出ていかざるを得なかったからだ。その部屋には今、Maliceが住んでいる。さゆるの中の思い出を人質に取っているようなものだ。そうしておいて、彼女は気まぐれにさゆるを呼び出しては貪ったりしている。
誰もいない教室でひとり、窓の桟に凭れて外を見ていたさゆるは、不意の人の気配に振り返った。
視界に入ったのは甘い香りの中に悪意と揶揄を纏わせた女。
「Malice」
苦く呟く。
彼女は――彼女の体は、というのがより正確か――去年、寝子高を卒業したＯＧだ。
先生にでも会ったら葉利沢 倫理子と名乗るのだろう。それがMaliceの主人格の名だから。
Maliceが倫理子の意識を乗っ取っている時間は近ごろとても長くなっていた。
目立たない色の他所行の服を纏って、まるで新入生の保護者であるかのような顔をして、もう卒業した学校にまでさゆるを掴まえにきたことも、倫理子の記憶には残らないに違いない。
「どうしてここに……」
さゆるの問いかけに、Maliceはにぃ、と唇を引いた。
「どうして？ あなたに会いたかったからよ。どうやってあなたがここにいることを知ったのか、という意味なら、クラス替えの掲示が出ていたから教室は分かっていたの。入学式をやり過ごし、ＨＲが終わるまで待っていたわ。案の定、あなたはなかなか教室から出てこなかった。学校は嫌いだけれど落ち着いて帰る場所もない。思考停止、行動停止……そんなかんじかしら？」
行きましょうか可愛いお人形さん。
Maliceは音に出さず口を動かすと、黙るさゆるを導くようにして並び、学校を出た。
向かった先は、藍人との思い出深いあの部屋だった。
時が過ぎ、重苦しい遮光カーテンの隙間から差し込む夕日の朱い光が瞼を貫くのを感じて倫理子は意識を取り戻した。ここがどこなのか一瞬見失っていた。まず認識したのは、シーツにくるまってはいるが、自分が一糸纏わぬ姿でいること。それから同じように一糸まとわぬ少女が隣で目を瞑って横たわっていること。
「……っ」
何があったかを悟り、息を呑む。
その気配に気づいたさゆるが気だるげに目を覚ました。
「Malice……いいえ、倫理子？」
さゆるは倫理子の表情から人格交代したことを悟ったようだ。おそらくMaliceは意図的だろう。
「……あの女、どこまで倫理子を傷つける？」
苦々しく吐き出される言葉を聞いた倫理子は、みるみる表情を崩してさゆるに抱き着いてきた。
「朝鳥さん……お願い、私を、私をもう一度抱いて、Maliceのことを忘れさせて……！」
甘い、とさゆるは思った。
そうすることが何かの贖罪になるとでもいうのだろうか。
いや、なりはしないだろう。
そして何かを癒しもしない。
自分に出来ることは、泣きじゃくる倫理子の肩を優しく押し返して拒絶することだけだ。
「自分で自分を傷つけるものではないわ。あなたがそんなだから、奴につけ入れられるのよ」
倫理子は目を見開き、いやいやするように首を振る。
涙が次から次へと頬を伝う。
けれどさゆるは構わず服を着、そんな倫理子を置いて部屋を出た。
部屋の中にすすり泣く声が充満する。
そのうちに意識が落ちて……倫理子はMaliceに戻った。
涙に濡れた顔に悪意の微笑を浮かべて。
Malice──その名の意味は「悪意」。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2021年02月06日
- 参加申し込みの期限
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- 2021年02月13日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2021年02月13日 11時00分
