【新年度】サクラサク、ひとつ大人になる四月｜リアクション

【新年度】サクラサク、ひとつ大人になる四月

●初日ホームルーム・その３

　――１年２年と尚輝先生のクラスになれなかったので今度こそなれますように。
　御巫時子の切なる願いは３年目の今年とうとう叶ったことになる。
　３年５組の教室の後方の、小鳥とだってこっそりお話できそうな窓際の席に座って、はじめましてのクラスメイトと話しながら待っていると、名簿を持った五十嵐尚輝先生が教室に入って来た。見慣れたボサボサ頭も、よれた白衣も、今日はなんだか新鮮だ。これから１年同じクラスの一員だと思うと、改めて嬉しさがこみあげてくる。
「尚輝センセー！　おはようございますナノ！」
　御薗井Ｅセレッソが元気いっぱい挨拶をする。

「あ、はい……おはようございます。ええと、この度３年５組の担任になった五十嵐です」

　生徒たちは続けてもっと詳しい自己紹介や、最終学年になるにあたっての激励のメッセージのようなものがあるのかと思って黙って待った。
「……」
「……」
「……はい、では『あ』の方から自己紹介を」
　終わりかよ！　とクラスメイトの大半が心の中で突っ込む。
（無口で掴み所がないところは相変わらずですね……）
　先生を良く知る時子はくすっと笑ってしまう。
　戸惑いながらも生徒たちが自己紹介をはじめた。
　『あ』から順にだと、『み』は最後のほうだ。
　みかなぎ、と時子が呼ばれる。
「はい……御巫時子です。私が今好きなことは料理でしょうか。お弁当に合う冷めても美味しいおかずを考えることが多いです」
　ちら、と先生の方を見る。先生に何度お弁当を作ったろう、と考えながら。先生は長い前髪が目元を隠していて感情の起伏が読みにくい。けれど、同じように思い出していてくれたらいいなと思う。
「あと今の時期は日向ぼっこをするのも好きです。うっかり寝てる事もあるので起こしてもらえると嬉しいです……」
　それはお互い様で、と近くの席の子がいたずらっぽい目でウィンクを返してくれる。

　時子が一礼して席につくと、次は、みそのい、と名が呼ばれた。
「はい！　ワタシの名前は、御薗井・エスターニョ・セレッソなノ！　好きな科目は音楽と現代文、苦手なのは……化学ナノ……尚輝センセーごめんなさいナノ。これを機会に克服できるようになりたいワ」
　セレッソは申し訳なさそうな上目遣いでお詫びするように両手を合わせる。
「えへへー、皆と仲良くなりたいノ！！　沢山お話しましょうネ！　ええと、自己紹介するのにいろいろテーマがあるのね。せっかくだから全部言っちゃうノ」
　セレッソは３本指を立てると、１本ずつ折りながら言った。
「『私がいま好きなコト』は、朝のお散歩ナノ！　遅刻しないように早起きを心掛けているのヨ。
　『これだけはぜったいにいやなこと』？　ええと、そうネ、……辛いモノを食べて！　って言われたら絶対イヤ！　考えただけで汗が出てきちゃうワ。
　最後の質問は『明日地球が滅びます。最後の１日どうすごす』？　とっても難しい質問ナノ……時間があれば皆にお手紙を書きたかったのヨ。うーんうーん……なるべくお友達皆に会いに行きたいワ！　ありがとうを伝えたいノ」
　この自己紹介は、彼女の人となりをクラスメイトに伝える役割をちゃんと果たせたようだ。
　ホームルームが終わると早速、セレッソに興味を持ったクラスメイトが何人か話しかけてきた。
「セレッソちゃんってどこから来たの？　寝子島出身じゃないよね？」
「エエ、高校入学まではイタリアを拠点に世界中を転々としていたのヨ」
　そういってセレッソははっとする。
「ワタシが寝子島に来て２年も経ったノ！？　月日が流れるのはとーっても早いワ」
　窓の外から明るい声が響いてくる。あの新鮮そうな雰囲気、新入生たちだ。
　あんな頃が自分たちにもあったのだ。
「新入生の皆も沢山お友達が出来るといいわネ！」