【新年度】サクラサク、ひとつ大人になる四月｜リアクション

【新年度】サクラサク、ひとつ大人になる四月

●初日ホームルーム・その４

　３年８組は芸術科クラス。
　先生も生徒も、普通科とはどこか雰囲気が違っている。
　担任の樋口弥生は普段から和装を好んでいて、この日もシックな色合いの素敵な帯を締めて現れた。

「私の担当は音楽、とくに琴が専門よ。このクラスは音楽だけじゃなく、絵画や演劇などを志している人もいると思います。それぞれの夢が叶うよう一緒に頑張りましょう」

　そんな先生のメッセージを、夢宮瑠奈はほわわ～とのんびり机に頭を預けて聞いていた。
（今年も始まりましたねぇ～）
　春のうららかな陽気のせいだろうか。
　やる気はどこかお出かけ中で、お風呂に入っているときのようなリラックス気分だ。
（そういえば本来はこうやってぼんやりしてるのがあたしのいつものすがただったなぁ）
　瑠奈は、末明（ほのか）せれねとして、アイドルと学生の二足の草鞋を履いている。
　なんだかんだ、あっちこっちでアイドル活動にせわしなく、昔みたいにこんな風に机にへにょーっとしてる時間もだいぶ減ってしまっていた。だからこうしていると、昔に戻ったみたいでくつろいでしまって……ほわんほわんしながらほわんほわんしてるという、ほわんほわんがほわんほわんだった。
　つんつん、背中を小突かれて、瑠奈ははっとした。
「じこしょうかいだよー」と後ろの席の子が小声で教えてくれる。
　慌てて立ち上がり、
「こんにちは！　末明せれねです！」
　なんて、学校だというのを忘れて営業スマイルすると、直前までのほわんほわんな姿を見ていたクラスメイトたちが逆にびっくりした。てへへ、と頭を掻いて、素に戻る。
「じゃなかった、夢宮瑠奈です。あたしは本来ぽややんした性格なのです。えーと、何を話せばいいのかな？」
　『私がいま好きなコト』とか『明日地球が滅ることになったらどうすごすか』とか……、とまた後ろの席の子が教えてくれる。
「あたしは歌うのが好きだよ。きっと明日、セカイが終わるんだってことになっても、あたしはセカイに歌を届けているんだろうなって、思うくらいには」
　それは瑠奈が高校に入ってからの２年間でさらに強くした想いだった。
「あたしはこの空間が好きだから、この空間にいられる間は浸っていたいと思っているのです。浸りすぎて、周りへの無防備をさらけ出しちゃってる気もするけれど。無防備のアイドルを見られるのは、同じ学校のクラスメイトだけだぞ！」
　きらっとアイドルポーズを決めて、瑠奈は小さく舌を出す。
「別にサービスとかそういうのでないですけどね」
　クラスメイト達がわあっと拍手した。アイドルの彼女をただのクラスメイトとして受け入れた拍手だった。
　自己紹介を終えて座った瑠奈は、ほわんほわんとリラックスした顔でふたたび机に頭を預ける。
「今も春で、ぽかぽかで、あったかいですし。ね」