春の一日｜リアクション

春の一日

　部屋は緩やかな寝息で満ちている。
　閉じていた瞼が微かに動き出す。収まると自然に目が開いた。
　真境名アリサは上体を起こす。ささやかな伸びをしてベッドから降りた。
　カーテンの端を掴むと一気に開けた。見える青空に思わず笑みが浮かぶ。
「何をしようかな」
　卓上に置かれたスマートフォンを手にした。ねこったーで情報収集を始める。特価や奉仕品の文字を目にする度に内容を読み込んだ。
「パスかな」
　遠方の安売り情報は読み飛ばした。
「これは」
　拡大した上に画面へ顔を近づける。春物のバーゲン情報であった。場所は近く、シーサイドタウン駅の駅ビル内、miaoが会場となっていた。
「時間もあるし」
　言いながら手早く着替えを済ませた。パンツルックとなったアリサは長い髪を弾ませて出掛けていった。

　アリサは運動を兼ねて徒歩で向かう。神秘的な青い瞳とスタイルの良さで人々の関心を引いた。特に若い男性の視線が多く、その都度、軽い笑みを返した。
　人通りの少ない路地に足を踏み入れた。すると、数歩でぽろりと本音が漏れる。
「ジュエルの客になるかもしれないし」
　通りに出ると視線を上げた。駅ビルに向かって足を速めた。
　中に入ると即座に人の流れに乗った。エスカレーターを経由して会場に到着した。賑やかな声と売り子のセールストークが混ざり合い、独特の雰囲気を醸し出す。
　――掘り出し物があればいいけど。
　目に付いた店舗に飛び込む。アリサは早速、色鮮やかなシャツを手に取った。指の腹で触り、素材を確かめる。襟の形や柄を他のシャツと見比べて頷いた。
　――普段着にも使えるかも。
　瞬く間に三着を腕に抱えた。レジに向かう途中で見つけた柔らかい色合いのブラウスは値札を見て即座に手に取った。
　アリサは紙袋を持ち、次の店に急ぐ。
　――これも、いいね。コスパが最高。
　次々と買い求めた。結果、予定していた額を少し上回る。両手に紙袋を提げて駅ビルを出た。
　近くにある寝子島スポーツセンターに一歩を踏み出し、唐突に踵を返して歩き出す。
　――邪魔よね。
　紙袋をちらりと見て横断歩道を渡る。旧市街にあるアパートへ足を急がせた。

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