＜天穹＞枯れ行く花に、甘露を捧げよ｜リアクション

＜天穹＞枯れ行く花に、甘露を捧げよ

　貴方は誤解されているようですが、私は成仏できたわけではありません。輪廻転生することなく、天帝の元、罪を償うために災厄の種となる世界の『綻び』を繕う仕事を行っております。

　自分の罪ですから、償いを行っているのです。私は、あまりにも多くの人々を苦しめすぎましたから。今、私にできる事は月華世界の災厄を払うべくできる限りのことを尽くすだけです。

　今後、私が反省していないと感じたのならば、天帝から授かったこの剣で私を始末してください。これは天帝からのお言葉です。この剣は、霊や低級神などを消滅させる力を持ちます。もし貴方から見て私が反省していないようであれば、それで罰するように、と。

（ちょっと拍子抜けしたかも……）
　サキリ・デイジーカッターは、少々痩せたように見える藍音の言葉を聞き表情を僅かに曇らせた。彼は天帝の庭に入る前、藍音へ１つ問いかけをした。その事に対する返答に、僅かながら口の中に苦い物を覚えたのだ。
　目の前にいる青龍族の女性は嘗て民を守る王の立場でありながら恋心を拗らせ月華世界に災厄を齎した存在である（まぁ、一概に彼女だけが悪いわけではなかったのだが）。まだ失恋を引きずって騒ぐようなら……と当初は少々血生臭い事も考えたが、その必要性はなさそうだ、と判断する。
（言葉に嘘は感じないな。反省しているみたいだ）
　藍音から渡された短剣は、妙に重く感じた。漆黒の刃を持つそれは酷く冷たく、鞘に入れなければ持てないほどであった。サキリは藍音を見、ため息を吐く。
　彼女がライメイを、ひいては天狼族を救おうと天帝に掛け合ったというのはツムジから聞いた。ここへ冒険者たちを導いたのも償いの１つなのだろう。
（これを使うか否かは……今後の藍音の行動次第だね）
　サキリは、とりあえずその短剣を懐にしまう事にした。
　藍音は深々と頭を下げると「こちらです」と彼を天帝の庭の入り口に案内した。

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