＜天穹＞枯れ行く花に、甘露を捧げよ｜リアクション

＜天穹＞枯れ行く花に、甘露を捧げよ

　一方その頃、修と紫は休憩がてら聖獣の近くに落ちていた星屑の欠片を拾っていた。あれから聖獣は起きそうで起きないという状態で、尻尾で時折藍音を打つ。それでも、藍音は竜の姿を解かなかった。
　時折美しい藍色の鱗が舞い散るが、今回の目的の物ではない。
「鱗を取る方法は、そっと剥ぐしかないと思う。だけど、あと一つ何かが足りないんだ」
「マタタビの量を増やしてみる？　あと少しあるから……」
　ツムジも２人と共に星屑の欠片を拾い集めている。集めなければならない数は１０００個と大量なため、根気強さが求められているな、と３人ともつくづく思う。
　しかも思っていた以上に割れやすい為、拾うのも慎重に行わなければならない。しかし、三人とも慎重に動くことが比較的得意なのか３，４個割っただけで拾うコツを掴んでいた。
「聖獣の様子はどうなんだろう？」
　修がそれとなく藍音に問えば、彼女は首を伸ばして顔を覗き込む。
「眼球も動いておりません。深く眠っているようですね」
「もう一度、鱗を取りに行きましょう。マタタビもあと少しなら増やせるわよ」
　紫の言葉に、修は１つ頷いた。

「じゃあ、作戦通りに」
「お互い頑張ろう」
　夏夜とサキリは頷き合うと二手に分かれた。目的は空飛ぶ卵。夏夜が、サキリの方へと追い込む作戦だ。
　空飛ぶ卵は翼を広げ悠々と飛んでいたが、低木の上に降りるとしばし翼をたたんで休んでいた。それを好機と捕らえた彼女はそっと卵へ歩み寄る。聖獣を背にすることで卵が聖獣の方へ行かないように気を付けながら……。
（ごめんね、僕等に必要だから……奪取させてもらうよ）
　夏夜は綿のような物を耳に詰め、空飛ぶ卵へと手を伸ばした。卵は彼女に気付き、羽根を飛ばして逃走する。頬を掠め、髪を少し切り、それでも夏夜は足を止めない。
（このぐらい、平気だよ）
　茂みを踏み越え、羽根を払って追いかけていく先に、茂みに隠れているサキリの瞳が見えた。卵は追ってくる夏夜にしか注意を払っておらず、彼に気付いていない。
（どこか口か音声を発する部位があるかな？　あるならこれで塞ぐんだけど……。聖獣の耳に聞こえたら起きかねないからね）
　夏夜が見た限りそう言った場所は見当たらない。ではどこから発するのだろう？　だがそれを考えている場合ではない。
　サキリが虚空を斬り、卵の真上に転移する。そして素早く手にしたシャツを被せる。バタバタ藻掻く翼から羽根が抜け、あたりに舞い散った。
「悪いね、これもライメイの為なんだ」
　サキリは赤光化させたナイフで素早く翼を切り落とし、そのままシャツで包んだ。だが、次の瞬間、振動がその手に伝わった。卵が叫んでいるのだ。彼は咄嗟に卵を抱えて身を丸め、振動を堪える。だが、激しく暴れようとする為、夏夜も手を貸した。
「大丈夫か？！」
「あぁ……！　これぐらい平気だっ！」
　腹に振動が響き、背に抜ける。骨を伝わる音が体を痺れさせる。だが、二人が体を張った為か、それとも翼を切り落としたからか。綿のような物を抜いた夏夜曰くあまりうるさくなかったらしい。
　しばらくして振動が止むと、二人ともフラフラになりながらも卵を出した。皹一つない卵は黄金に輝いていた。
　藍音曰く、それ１つあれば浄化の儀式に使えるらしい。あと２つ３つ必要な場合体力が持つか分からなかった２人はちょっとほっとしたらしい。
　卵の振動を強めに受けていた上、ろっこんを多用していたサキリはまだフラフラしているようだった。彼は少しだけ休んでから星屑の欠片を拾うツムジと合流する事に。
「サキリ君はゆっくりしていて」
「あぁ……。ありがとう」
　夏夜は紫と修の元へ急ぎ、サキリは少しうとうとしかけながらも彼女を見送る。
「それにしても、この庭園ちょっと危険すぎない？　天帝とやらは中々良い趣味をしているね」
　サキリは、苦笑しながら空を見上げた。

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