＜天穹＞枯れ行く花に、甘露を捧げよ｜リアクション

＜天穹＞枯れ行く花に、甘露を捧げよ

破：素材を求めて
（思いのほか素早いな）
（おまけに動き回る桃の木と追いかけっこしてない？）
　サキリと夏夜は、必死になって空飛ぶ卵と動き回る桃の木を追っていた。空飛ぶ卵を追いかけていたら、自然とこうなったのである。
　桃の木の根っこ攻撃はどうにか避けることができるが、桃の種攻撃はどこから飛んでくるのかが未知数な為、そこまで痛くはないが地味に嫌な攻撃である。
　それに空飛ぶ卵は時折金の羽根を投げて２人を攻撃する。なかなか追いかけるにも骨が折れる相手だ。
（まだ鳴いてはいないが……）
　サキリは空飛ぶ卵をちらりと見、桃の種攻撃を避けながらも捕まえる算段をしていた。
「恵御納」
　彼は夏夜を呼ぶと一旦追いかけるのをやめ、桃の木と空飛ぶ卵から少し離れる。ある程度離れた所まで来ることができた為、聖獣の鱗を入手しようとする２人の邪魔をしなくて済むだろう。
「流石に濡れ手に粟ってパターンはなかったね。……仕切りなおそうか」
「そうだね。僕は空飛ぶ卵を捕まえる為に、待ち伏せしようと思っている」
　夏夜がちらり、と空飛ぶ卵を見て提案するとサキリは策を話す。夏夜は夏夜でどうしようか考えていた事がある為、話し合う。
「これ、途中で見つけたんだ。耳栓になると思う」
「ありがとう。これは丁度いい」
　夏夜から手渡された綿のような物を受け取り、サキリは礼を述べて耳に入れてみる。と、音がしっかり遮断される。
（これは丁度いいな）
　空飛ぶ卵に叫ばれると鼓膜が破れる可能性があると聞いていた為、これは丁度良かった。だが、他の音が聞こえないのが難点だが。一旦綿のような物を外し、懐に仕舞う。
「桃の木はどうする？」
「一旦空飛ぶ卵に集中しよう。どうにか桃の木から離せないかな……」
　夏夜とサキリは物陰から桃の木と空飛ぶ卵の様子を伺う。追いかけていた２人が姿を消した事に気付いてないようで、追いかけっこに夢中だ。
　その内、桃の木が水辺に根の数本を垂らして休憩を始めた。卵は翼を広げ別の場所へと飛んでいく。それを見たサキリは、桃の木を見たまま夏夜の肩をぽん、と叩いた。
「作戦変更。桃の木を先に」
「わかった」
　頷き合うと２人はこっそりと桃の木へと近づく。桃の木が休んでいるという事は……。
（今は、弱っているという事。狙うなら今だ）
　サキリが攻撃を仕掛ける。素早く近づくとその周りを走り始めたのだ。
「こっちだよ」
　刃物を手に挑発する彼を敵と挑発すると、桃の木は根を伸ばして攻撃する。どこからともかくタネも飛んでくるが、サキリは身軽な動きで避ける。
（急所以外なら多少の被弾は覚悟の上だよ）
　桃の種が頬を掠め、薄っすらと血が滲む。先ほど飛ばした種より高威力で射出されており、先ほどはどうやら手加減されていたらしい事を知る。
　サキリに集中している桃の木は、夏夜に気付いていない。彼女は呼吸を殺し、根が水から完全に上がるのを待つ。サキリが上手く気を引いている為か、徐々に根は水からあがり、ついに完全に土の上へと上がった！
　夏夜がサキリに合図を送ると、彼女もまた気を引く為に駆け寄る。桃の種は彼女へ向き、サキリは一瞬の隙をついてろっこん発動！　赤い輝きを纏った剣鉈で根を切り払っていく。
　根が斬られるたびに種射出の威力が低下する。そして、夏夜への種射出が収まると、桃の木はよろよろと水辺へと逃れようとする。
「させないよ」
　サキリはろっこんで先回りし、幹に深々とナイフを突きさす。そこから甘い香りが立ち上り、すぐに樹液が滴り始めた。夏夜は容器をサキリに渡すとそれに樹液を集める。
「ありがと、ね。助かったよ」
「でも、大丈夫か？　ろっこんを何度も使っていたから気になっているんだ」
　夏夜が少し心配そうに言うが、サキリは首を振った。スタミナの方も自信はあるのかもしれない。
「大丈夫。それに、まだ卵の方が残っている。休憩がてら作戦をたてよう」
「そうしよう。相手はすばしっこいし羽根も飛ばしてくるからね」
　彼の言葉に頷く夏夜。だが、樹液から立ち上る甘い香りが二人とも気になってしまった。手についた物を少しだけ口にすると、思いのほか甘い。それだけではなく体の疲れがすっ、と取れてしまった。
「これは驚いた……」
　夏夜の言葉に、サキリも目を僅かに見開いて頷く。桃の木からナイフを抜くと、再び根を生やして水辺へと入り休憩を始めた。ナイフの傷も徐々に塞がろうとしている。
（……あれは本当に木だろうか）
　サキリは、ちょっとだけ怪訝に思った。

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＜天穹＞枯れ行く花に、甘露を捧げよ

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